「#19」

エターナルの誕生から十数年程経った頃の話

プラズマを使った最新鋭のゴミ処理施設を北海道の夕張市にある炭鉱の跡地に建設していた。

5キロ圏内に発電所に火葬場を兼ね備えた葬儀場。

そして製薬工場に製菓工場。

葬儀場の側には、かがやきの森という樹木葬の公園まである。

今や夕張市はエターナルの庭と化していた。

そのゴミ処理施設のマスコミ取材が報道各社への許可がおりたことで、その入り口前に取材陣が待ちわびていた。

ワインレッドのベレー帽を被ったごま塩頭の角刈りの中年に、りんご太りの青年が話しかけた。

「あ、どーも、私フリーの記者でして…」

彼は、名刺を手渡した。

「ご丁寧に、どうも。
マルイ…ゼンコウさん?」

ごま塩頭をポリポリかいた。

「違います、ヨシユキです。」

その男、丸井善行は続ける。

「サトウトシオさんですよね、スクープ連発してるフリーのジャーナリストの…」

「佐藤寿雄です、オレそんな有名だったかな、どーも、まいったね。」

佐藤は指差して言う。

「それにしてもごたいそうなもんつくったもんだねー。」

佐藤は続ける。

「あんたも善い行いでヨシユキとは立派なプレゼントもらったもんだ。」

佐藤は頭をくしゃくしゃとかいた。

丸井は不思議そうに尋ねた。

「プレゼントですか?」

「オレは両親から初めてもらうプレゼントだと思ってるぞ。」

佐藤は当たり前だろうと返した。

「ロマンチストなんですね、意外です。」

丸井は不思議そうだ。

「そうでなきゃやってられない商売だろうよ、だが…あんたさんはオレの真似するのはオススメしないよ。」

佐藤の言葉におうむ返しする丸井。

「マネ…?」

「いつか必ず死ぬことになるからな、アハハ…」

苦笑すると真剣なまなざしで丸井に問いかける。

「ここ、すげぇニオうだろ、プンプンしてらぁ。」

「匂いがしますか?」

コイツは大物だなと佐藤は頭を抱える。

「世の中には知らない方が幸せな場合もたくさんあるんだよ。」

飛んで来た羽虫を必要以上に払っている丸井に佐藤は続ける。

「チョコ好きなのか?」

丸井の持っているチョコ菓子を指差して言う佐藤。

「これ、新発売のチョッキーの贅沢イチゴミルク味ですよ、美味しいんです。」

佐藤は丸井に向けて語る。

「虫嫌いの丸井君に朗報だ!

そのチョッキーの成分表示を見るとコチニール色素って書いてあるだろ。

そいつはな、南米なんかのサボテンに寄生するコチニールカイガラムシっていうアブラムシみたいな虫の体液から作られているんだよ。」

「た、体液?」

佐藤はギョッとする丸井を置いてけぼりにする。

「コチニールカイガラムシはな、潰すと真っ赤な体液が出るんだ、それを抽出して濾過して乾燥して粉末にしたのがコチニール色素さ。

つまり、おまえさんの口いっぱいに広がっているのはイチゴミルクなんかじゃなくて虫の体液たっぷりのチョコってことさね。」

佐藤の言葉に丸井は食べかけのチョッキーを吐き出した。

「もう二度と食べられなくなっちゃったじゃないですか!」

丸井は佐藤に怒りをぶつけた。

「おめでとさん、それがトラウマの味ってやつさ、オレがいるのは、そんな世界だ、知ったが最後、戻れない世界にいるのさ。」

佐藤は身構えた。

「来たぞ、アイツが…ここのボスってわけね。」

口元が妙に赤く光っている人間が近付いてくる。

「やぁやぁ、お待たせしてしまいましたが…どうぞコチラへ…」

作り笑顔の男は物腰低く対応していた。

佐藤は目の前にいるのが人間では無いことにいち早く気付いていた。

頭をくしゃくしゃとかいて、溜め息をひとつ。

冷や汗を袖で拭ってから、後を追うことにした。


施設全体が陽炎で揺れ動いていた。