「#18」

誠一郎と別れた喫茶店から数時間後の稲村家の邸宅。

田園調布に建つ大豪邸の敷地は東京ドームなら6個分だそうだ。

その邸宅のダイニングルームには樹齢300年程と言われる檜の一枚板から作られたダイニングテーブルがあった。

7メートルもある大きなテーブルには稲村家が一堂に会していた。

ピカピカに磨かれたテーブルには、それぞれの姿が映り込んでいた。

稲村家当主の「元(はじめ)」に、その妻「真琴(まこと)」は雪乃からみると祖父と祖母である。

雪乃の父「勲男(いさお)」に母「菫(すみれ)」

勲男の弟「清志(きよし)」

雪乃の妹の次女「月穂(つきほ)」

三女の「花菜(かな)」

次から次へと運ばれてくるフランス料理には目もくれない。

雪乃に向かって、元は話しかける。

「いいか、雪乃…このオゾングループは、もともとは小さな萬屋であったのだ、私の田舎の高崎を盛り上げていこうと人々の意見を聞いて回って、次第にここまでの規模になったのだ。」

「何度も聞かされました、黒瀬様を見出して出資なさって独立させた話とか色々、聞かされてますわ。」

散々だと言いたげな表情で雪乃は答える。

「誠一郎君に会って来たそうだな。」

元は不機嫌そうに言う。

「はい、私としては誠一郎様の行動に対して何ら非難などする気はありませんから…」

雪乃の言葉に父の勲男は呆れ顔だ。

「何故だ、おまえがあれほど憧れて愛していた人間に裏切られ泥を塗られたのだぞ。」

母の菫はヒステリックに叫ぶ。

「マスコミに知られたりしたら株価だって、どうなることかわからないのよ‼︎」

雪乃は怯まずに続ける。

「誠太郎様とも話をしてきました…」

「む、むこうは…なんと…」

元は雪乃を見据えた。

「私が稲村も愛澤も全て取り持ちます。

合併の話は進めて下さい、もう…そういう次元の話ではなくなってしまいましたから…」

「雪乃、あなた一体どうしたの?」

菫が娘が乱心したとばかりに呟く。

雪乃は怯まない。

「お母様、誠一郎様は私の心の中にいつでも…ずっといます。

ですので、大丈夫、心配なさらずに。」

雪乃は微笑み返す。

「お父様、五百川(いおかわ)様の協力は、すでに取り付けてあります。

ですから例のIRもタウン構想とか、その他諸々の話を上手くやって欲しいとのことでした。

さらに誠太郎様の援助もあり、政財界の会長の岩館様にも話を通してあります…

もうひとつ、岩館様経由でひなげし銀行の雛形会長も合併に参加させて欲しいとのことです。」

雪乃は怯まない。

「いかがでしょう?もう引き返せませんわね。」

元は目を丸くする。

「いつの間に、そんなおおごとに雛形会長が合併に参加…三大派閥の五百川先生に政財界のドンの岩館会長まで…日本そのものを動かそうというのか、雪乃よ。」

雪乃は怯まない。

「エターナル…合併後の社名ですわ。」

勲男は驚きを通り越していた。

「社名まで、黒幕は誰だ雪乃?」

18歳の娘ひとりで出来ることでは無いのは明白だ。

「あら、女は秘密をたくさん抱えておくものだと教えていただきましたわ。」

祖母の真琴は誇らしげだ。

「雪乃、女も大いに大志を抱けと私が教えましたものね、まさか日本を背負っていける器だとは驚きましわ。」

妹2人は姉の迫力に怖がるばかりだ。



それから、まもなくしてエターナルという日本最大級の複合会社が誕生した。

全世界を股にかける巨大企業に…


その裏で暗躍し始める男がいた。


「気に入らない、気に食わない、イライラする…腹の虫がおさまらねぇ、全部壊してやる、全部だ‼︎」

赤く光る口元が狂気に満ち溢れていた。

乾いた風がガタガタとダイニングルームの窓を揺らしていた。


雪乃は瞼を閉じて浮かび上がる誠一郎に、今このまま抱きしめてもらえたらと願わずにはいられなかった。

震える心は抑えられなかった。