誰よりも速く

「負けた……」

 俺は負けを認めた。食事を吐いても、万引きをしても、智徳には勝てなかった。限界まで動いた心臓が、負けを認めたくないと暴れている。

 どこかで、自分の努力は間違っている、と気づいていた。ただ、神様のいたずらか、良いタイムを出してしまったことによりやめるに、やめられなくなってしまった。

 涙があふれてくる。

「はぁ、はぁ、瑆は、気づいてたんだよな。このままじゃダメだって」

 智徳はわかったように言う。

「最後、足をゆるめただろ」

 智徳と目を合わせたくなくて、腕で目を覆った。

「瑆が間違った方向に走り出したら、僕が全力で止めるから。安心して走れよ」

 智徳が俺の腕を掴んだ。僕は腕の力を抜く。

「……ありがとう」

 あふれた涙で前があまり見えない。だけど、智徳は優しく笑っているような気がした。