生贄にされた花嫁は不老不死の妖狐に愛される

「問題ない。心配かけたな」
 御影が使用人たちに答え、周囲が安堵の息をついた。
 彩はつい先ほどまで御影の手を握っていた自身の手を見つめた。
 昔、麗奈が生まれ前、風邪で寝込んだことがあった。
 父と母がまだ優しかったころの話だ。
 幼い体には苦しくて苦しくてたまらなかった。
 そんな時、母が手を握ってくれたのだ。
「大丈夫、大丈夫よ」と。
 その温かさに本当に大丈夫な気がして、きっとこの幸せがずっと続くのだと思っていた。
 そんなことはなかったのに。
 なぜかそんな昔のことを思い出して手を握ってしまった。
(私なんかが触れてしまって良い人ではないのに)
「おい、」
 物思いにふけっていると、御影に話しかけられた。
 怒られるのだと思った。
「申し訳ありませんでした。伏見さまに触れてしまって」
 彩は縮こまって謝った。
「なぜ謝る?怒ってなどいない。なぜかお前が手を握った瞬間、楽になった。礼を言う」
「...え?」
 怒られると覚悟していたのになぜか礼を言われ、拍子抜けしてしまった。
「お前、鎖骨の紋様を見せてみろ」
 彩は戸惑いながら、着物の首元を緩め鎖骨を見せた。
 やはり、黒色の紋様が刻まれている。
「間違いないようだな。お前は花嫁だ」
 辺りに緊迫した空気が漂う。
「では、私とは婚約を解消したほうが良いのでは...」
「それは許さない、花嫁は妖全員が喉から手が出るほど欲しがっている」
「ですが、寿命が縮まるんですよね?それに伏見家は妖の中で最強だって。」
「それは絶対ではない。俺と近い強さの力を持つものも少なくはない。
 だが花嫁と結婚すれば、絶対的な力を持つことができ、その力は子にも受け継がれる」
 御影はきっぱりというが、彩には抱えきれない話だった。
 自分のせいで御影の寿命を縮めるというのはとても恐ろしいものだった。