生贄にされた花嫁は不老不死の妖狐に愛される

穏やかな日々を過ごしていたある日、彩が刺繍をしていると、訪問者が来た。
 彩が出迎えると、そこにはとても美しい女性が立っていた。
 透けるような白い肌、切れ長の涼しそうな目元、すらっとした気品あふれる立ち姿。
(綺麗な人...)
「何か御用ですか?」
 彩が尋ねりると、その女性が口を開いた。
「初めまして。わたくし、伏見家の分家に当たる十文字家の長女、十文字綾芽と申します。
 婚約者さまにご挨拶をと思いまして」
 分家、ということはつまり彼女も妖であり、狐族の一人ということだ。
 人間離れした美貌にも納得がいく。
「わざわざありがとうございます。どうぞ中へ入ってください」
 客間に入ってもらい、お茶を出す。
「わたくし、御影さまとは幼馴染なんです。なのでお互いのことはよく知っています」
「そうなんですね」
 御影に幼馴染がいたとは驚いた。同時に少しうらやましくなった。
(旦那さまのこと、幼少期から知っているのね...)
「もし、御影さまの縁談がうまくいっていなければ、わたくしが嫁ぐはずでした。」
「わたくし、この婚約には正直言って反対なんです」
 突然敵意を向けられた気がした。
「あなた、伝説の花嫁だそうね。最強の力を与えるという。そして結婚した妖は寿命が花嫁と同じになる。
 つまり、本来不老不死であった御影さまの寿命が人間であるあなたと同じになってしまう」
「...」
 そうだった。彩は御影の寿命を縮めてしまう。わかっていたことだった。
 御影と過ごす日々が幸せすぎて忘れていた。
「御影さまはただでさえ妖の中で頂点にいます。花嫁の力なんて必要ありません。
 わたくしは幼いころから、御影さまに似合う女性になれるように日々、勉学やお稽古に励んでいました。
 狐族を背負うという覚悟があります。人間の中でのほほんと生きてきたあなたにその覚悟はありますか?」
 覚悟、御影の寿命に向き合う覚悟、妖界の頂点である狐族を背負う覚悟
 どれも自分にはないような気がした。
「私は...」
「答えられないようですね。よく考えてください。また来ますから」
 綾芽が去った後、彩はしばらく動けなかった。