生贄にされた花嫁は不老不死の妖狐に愛される

 彩は御影がいる書斎の戸を叩く。
「入れ」
 その声を聞き、彩は書斎に足を踏み入れた。
 来たのが彩だとわかった御影は顔をわずかにほころばせた。
「どうした?何かあったか」
「旦那さま。ハンドクリームとお着物ありがとうございました」
「気に入ったのなら良かった」
「これはお礼です。私なんかの手作りでは満足されないかもしれませんが...」
 震える手で差し出す。
「そんなわけがない。今までもらったもので一番うれしい」
 御影が本当に嬉しそうな顔で笑った。
 そんな顔しないで。離れたくなくなってしまう。
「ハーデンベルギア、花言葉は...」
「あなたに出会えてよかった」
 彩が答える。
「そうだ、そういう意味だったな」
「今まで本当にありがとうございました。旦那さまに出会って、この家に来て、本当に毎日が幸せでいっぱいでした」
 過去形で話す彩に御影の顔がどんどん険しくなる。
「今まで、とはどういう意味だ」
 低い声
「もともと、私は必要がないなら、婚約を解消するという約束でした。
 美しいわけでも、華やかな特技だってない。のろまで、何の役にも立たない私なんか、いないほうがいいでしょう?」
 御影は自分が言ったことを後悔した。
 必要がなければ婚約を解消する、確かに言った。ひどい言葉だ。
「そんなことを言ってすまなかった。しかし彩は俺にとって必要な存在だ。彩はとてもきれいだし、料理だって誰よりもうまい」
「そんな、私は家でも出来損ない、価値がないって言われて...」
 御影は耐え切れず彩を抱きしめた。
「俺は彩がいないとだめだ。些細なことに喜び、感謝する。そんな彩を見ているうちに、愛らしいと思った、いとおしいと
 思った。価値がないだなんて二度というな。彩の本当の気持ちが知りたい」
 彩は涙が止まらない。ずっと彩が欲しかった言葉だ。
 愛されたかった。必要とされたかった。ずっと、ずっと抱きしめてほしかった。
「私は...私も旦那さまが必要なんです。そばにいたい」
「じゃあ、この先の未来ずっと生きていこう。辛い時も悲しい時も、うれしい時も」
「はい...!」
 二人は強く抱きしめあった。
 ようやく心が通じあえたような気がした。