生贄にされた花嫁は不老不死の妖狐に愛される

 日曜日 ついにこの日が来た。
 彩は高鳴る胸を押さえながら、唯一持っているよそ行きの初日に来たの着物を出す。
 来てみたが、やはりすっぴんの顔には不釣り合いだ。
 麗奈みたいに華やかな顔立ちならきっと着こなして、周りの殿方を魅了するだろう。
 このままでは御影の隣にはとてもじゃないが、並べないだろう。
 彩は意を決して文江の元へ訪ねた。
「あらあら、いかがなさいました?今日は坊ちゃまとお出かけでしょう?」
 文江はいきなり訪ねても何一つ嫌な顔をしなかった。
「お化粧道具持っていませんか?」
「お化粧道具、持っていますよ」
「もしよろしければ使わせていただけませんか?自分のを持っていなくて...」
 文江はきょとんとした顔をした。
 それはそうだろう。世間一般の女性がましてや名家の令嬢がお化粧道具を何一つ持っていないなんてありえない。
「変なことを言ってすみませんでした...失礼します」
 彩は居たたまれなくなってその場を離れようとした。
「お待ちください、彩さまもちろんいいですよ。もしよろしければ私がお化粧させていただいても?」
「いいんですか?」
「もちろんですとも!むしろしてみたかったんですよ、誰かにお化粧するの」
 そう言って文江は優しく笑った。
「では、お願いします」
 文江はお化粧箱を取り出した。
 そこには見るからに高級そうなお化粧道品が並んでいた。
「彩さまは元が良いので、薄目でも十分ですね」
 お世辞だとわかっているが、彩は嬉しくなった。
 文江はおしろいをうすく塗り、頬紅を頬の中心に、繊細な朱色の口紅を塗った。
「はい、完成です。とってもおきれいですよ」
「わぁ...」
 鏡の前の彩は、いつもの顔色の悪く、幸の薄そうな地味な顔から、
 血色がよい幸せそうな顔になっていた。
(すごい...!)
「ありがとうございます。私お化粧したの初めてです」
「まあそうなんですね、文江もすごく楽しかったです。またさせてくださいな。」
「ぜひ!」
 また一つ楽しみなことが増えた。
「坊ちゃまとのデヱト、楽しんでくださいね」
 去り際に文江がとんでもない発言を残した。
(デ、デ、デヱト⁉ そんなただ旦那さまの買い物に連れて行ってくださるだけで、そんなっ)
 彩は心臓がバクバク暴れた
(こんな状態で大丈夫かしら...)