生贄にされた花嫁は不老不死の妖狐に愛される

 彩は横になったが、全く寝れず、朝を迎えた。
 御影は必要がなくなったら婚約を解消すると言っていた。
 きっとのろまで何の取り柄もない自分はすぐ婚約を解消されるだろう。
(少しの間だけれどお世話になるのだから、何か役に立たなくちゃ)
 しかし彩が吉柳家にいたころにしていたことといえば、料理に洗濯、掃除、その他諸々の雑用ばかりである。
 花を生けたり、お茶をたてたりなどという名家の令嬢らしい特技は何一つとして持っていない。
(やはり、お料理かしら...)
 厨房に来てみたが、時間が早すぎたのかまだ誰もいなかった。
(勝手に入っていいのかしら...)
 少し不安に思いながら厨房を見渡すと、吉柳家よりも広く道具や材料も豊富に揃えられていた。
 それを見て彩は少し胸が躍った。
 もともと料理は嫌いではなく、むしろ好きなほうだった。
 黙々と作業しているうちは何も考えずに済むから。
 お味噌汁のお出汁を煮ている間に、魚を七輪で焼いたり、手際よく動く。
 がちゃっと戸が開く音がした。
「彩さまっ⁉」
 伏見家の料理人たちが驚いた声を上げる。
「おはようございます。勝手に使ってすみません」
 彩が謝ると慌てた様子で
「それは全然かまわないのですが、彩さまにこんなことしていくわけには!」
「やはりご迷惑でしたか...」
「そんなことはございません!!ただ彩さまは御影さまと婚約されている身、つまり伏見家の女主人なのです!」
 ものすごい勢いで圧倒された彩だったが、
「私も何か役に立ちたいんです。お願いします!。」
「そこまで言うのなら...」
 引き下がらない彩を見て料理人はあきらめたようだ。
「ありがとうございます!」
 彩が作業を再開する。
 料理人たちは彩の手際の良さに驚く。
「習っていたのですか?」
「いえ、習ってはいなかったんですけど...」
 まさか家では使用人同然の扱いを受けていましたなんて言えるわけがない。
 彩の言葉が途中で切れてしまった。
 気まずい空気が流れる。
「ならすごく才能ありますよ!」
 料理人の一人が沈んだ空気を打ち消すように言い、場は和んだ。
(私ったら気を使わせてほんとだめね...)
 彩はそう思いながら、作業を続けた。