柏くんの美味しい愛し方


いきなり全部は食べられなかったが、器に入っていた半分は食べることができた。「ご馳走様でした」と言って箸を置くと、リトルデビルカシワはまじまじと俺を珍しいものを見るように眺めてきた。

「なあ、さっきの『食べれた』ってどういうこと?」
「え、そ、それは…」
「俺、自分が作った料理を弟以外に食べてもらったことなくてさ、さっきたまたまお前が覗いてたからコイツならいいかなって味見頼んだんだけど…予想外の反応すぎてビビったんだわ。気になる」

さっきはあまりに驚いて、つい口から言葉が出てしまった。普段なら他の人には食べれないことは絶対勘づかれないようにするのに。何とか誤魔化したいと思ったが、俺はそんな口達者ではないし彼も早く言えと言わんばかりにまた顔を覗き込んできている。

「その…俺あんまり、普段ご飯食べられなくて…」
「え、なんで?」
「えっ?えっと…体が受け付けないっていうか…あはは」
「飯食えないの?じゃあ普段飯どうしてんの?」
「え、エナジーゼリーとか、プロテインとか…」
「はぁ!?」

それとなく答えて誤魔化すつもりだったのに、思った以上の質問責めだ。どんどん顔を近付けてくるし、彼にはテリトリーというものが無さそうに見える。そして少し顎に手を当てて何かを考えたあと、何かを思い出したようにハッとした表情を見せた。

「そういえば名乗ってもなかったし、名前聞いてなかったな。俺B組の柏陽一郎(かしわよういちろう)。お前は?」
「あ、D組の水見葉留(みずみはる)…」
「Dかー、じゃあ体育被らねーから知らねぇよな!」
「いや、名前は知ってた…」
「え!?なんで!?俺のこと知ってたの?俺有名人!?」
「あ、ある意味…?」

言ってもいいのだろうか。あの異名を…。だいぶ最初の怖いイメージよりは話しやすいけど、一応喧嘩強い人だし…。

「あー多分知ってたのアレだろ?リトルデビルカシワ!あの名前まじウケるよなー!俺は全然そんなつもりないのに」
「う、うん…」

やはり本人も認知していたようだ。自分で名前を口に出して笑っている。ケタケタと笑う姿を間近で見ると、リトルデビルというよりはほっぺが少し膨らんで柔らかそうで、どっちかと言うと…

「…柏餅」
「え??柏餅?」
「ああ!ごめんなさい!なんか、初めてそんな笑ってる姿見たし初めて話したし…リトルデビルってよりは、なんかほっぺが柏餅みたいだなって…あ!失礼だよね!ごめ…」
「ぶっ!!!あははは!!!な、なにそれ…!あははっ、柏餅…俺そんな可愛いイメージ?初めて言われたし…!あはははっ!確かに笑うとほっぺは膨らむ方だけど!」

バシバシと机を叩きながら笑い転げている柏くん。てっきり怒られるかと思ったけど、やっぱり明るくて優しい人なのかもしれない。

「ははっ…水見、おもしろ!なんか真面目な優等生っぽいのに…もしかして天然?」
「ああ、いや…そんなことはないけど…」
「てか、さっきの話戻すけどさ、普段飯食えないんだよな?それってどういう系?ダイエットとか?」
「えっ、あ、いや。なんて言うか…精神的?なやつかな」
「ふーん。なるほどねぇ…」

話を戻すのか、と思ったけどなんだか不思議だ。グイグイ来られてるから遠慮をする隙がないせいか、柏くんが普通のテンションで腫れ物扱いしないせいか、今まで誰にも言えなかったことがスルスルと自分から出ていくようだ。

「いいこと思いついた!」
「え?いいこと?」
「そう。お前さっき俺が作った料理は食べれたんだよな?」
「うん、久しぶりに…不思議と美味しく食べれたよ」
「それに、バッシュ持ってるし水見バスケ部だろ?飯食えないってなると部活も捗らないだろ?」
「それは…まさにその通り…」
「じゃあさ、俺がお前に飯作ってやるよ!」