柏くんの美味しい愛し方



まさかすぎる問いかけをされて、間抜けっぽい声が出てしまった。目をパチパチさせて状況が飲めないその数秒間、彼と目が合っていた。派手な風貌に似つかわしくない丸くて茶色い綺麗な目をしている。パチパチと瞬きをする度に吸い込まれそうな感覚がした。

「ほら入って入って。俺しかいないから大丈夫」

そして、返事をする間もなく腕を引っ張られ中へと誘導されてしまった。よくよく考えたら、さっきこの人は「味見をしてほしい」と言った。こんな状態の俺が、料理の味見なんてできる訳がない。出来たとしても、食べた直後に気持ち悪くなって最悪な状況を作り出してしまうに決まっている。

リトルデビルカシワは、強引に俺を椅子に座らせ、あれよあれよと言う間に料理が入った小さい器を目の前にコトンと優しく置いた。言葉を発する隙も与えないくらい手際が良すぎる。

「きんぴらごぼう。部活の後なら腹も減ってるだろ?食ってみてよ。あ!もしかしてきんぴらごぼう苦手だったか!?」
「えっあ、いや…そうじゃなくて…」

目の前の器に入っているきんぴらごぼうを見下ろしながら、俺は内心だらだらと汗をかいていた。この逃げられない状況で、しかも相手は有名なヤンキーだ。というか、名前も知らない奴に味見をさせるなんて、やはりこの人は噂通りのとんでもないコミュ力お化けらしい。

これはもう食べるしかないのか…とゆっくり箸を手に持った。

すると、彼は俺の隣にしゃがみ込んでテーブルの上に腕を乗せその上に顎を置いた。まるで親に褒められたい子供のようにキラキラした表情で俺をじっと見ている。

それがなんだか可笑しくて、間近にいるのに怖いイメージがまるでなくて、ふっと肩の力が抜けた。そして「いただきます」と呟いて意を決した俺は、箸で摘んだきんぴらごぼうを口にゆっくりと運ぶ。

そうした所で気が付いた。そういえばこんなに料理の近くで匂いを感じているのに、気持ち悪くなっていないと。それを不思議に思いつつ、口に入れたきんぴらごぼうをゆっくり咀嚼してみた。

あれ…?

「…どう?どうだ?」

あれ?なんでだ…?

「…あれ、なんで、食べ、れる」
「え??」

咀嚼して飲み込んでも、喉奥から込み上げてこない。胃液が上がってくる感覚もない。むしろ、美味しいとまで感じた。

嘘かと思い、もう一口食べてみた。

やっぱりだ。どうしてか、この人が作ったきんぴらごぼうが食べられる。食べたものを飲み込める。

それに、いつぶりだろう。こんな風に美味しいと感じたのは…。

「おい、食べれるってどういう…ぅえ!?」

久しぶりに食事が喉を通った感動のせいか、このきんぴらごぼうの優しい味付けのせいか、無意識に俺の目から涙が溢れ出たようだ。目頭が熱くなって一筋頬を伝っていく感覚がした。

「おいおい、どうしたんだよ。そんな、泣くほど美味かったのか!?」
「…っうん、美味しい。美味しいよ」

何故か分からない。偶然かもしれないけれど、久しぶりに体が食べ物を受け付けてくれた。嘘じゃないんだ。

鼻を啜りながらパクパクときんぴらごぼうを口に運ぶと、彼は少し焦った雰囲気で俺の様子を見つめているようだった。