柏くんの美味しい愛し方


無理やり少量を食べて飲み込むことはできても、すぐ気持ち悪くなってしまうし何を食べても美味しいと感じられなくて苦痛だ。そもそも『食事』という時間が苦手なのかもしれない。

原因は、恐らくアレだ。

俺の両親は昔から教育熱心で厳しい方だった。家族との食事の時間は、母親にいつも勉強や学校のことをうるさく言われるのが当たり前。全員揃う時間だから話しやすいのか、長時間叱られたり小言を言われるのはいつも夕食の時。そのストレスのせいで、だんだん食べることが辛くなっていた。

それまでは、気が重いなと思う程度だったけど。こんなに食事が喉を通らなくなったのは去年から。

高校生になったばかりの時。夕食の時間、突然母親が俺の部屋に隠してあった男同士の恋愛が描かれている漫画を何冊か重ねてテーブルに置き始めた。その瞬間、飲み込んだばかりの焼き魚が喉に這い上がってくるような感覚がしたのを覚えている。

隠しておいたのになんで…と絶句していると、母親はひどく取り乱して俺に罵声を浴びせた。

「こんな汚いものをなんで読んでいるの!?まさか男が好きだなんて言わないわよね!?」
「気持ち悪い!こんなの読む暇があったら勉強しなさい!!いい大学に行って大手に就職して、早めに結婚して母さん達に元気な孫を見せるの!!分かった!?」

これだけではない。他にも色々言われたけど、頭が真っ白になっていたからもう思い出せない。ヒステリックに声を上げる母親と、呆れたようにため息をついて知らん顔な父親。

この空間から早く抜け出したくて、気が付くと俺はトイレに駆け込んでいた。そして食べたものを全て戻してしまった。


思春期だからこそ自覚してきた自分のセクシュアリティだけど、親に理解してもらえるなんて思ってなかった。だからずっと隠しておこうと思っていたし、唯一の楽しみだった漫画だって、バレないよう棚の奥底に隠しておいたのに。きっと母さんが勝手に部屋に入って、俺の動向をチェックするために漁ったんだろう。


今まで我慢してきたけど、勉学のことだけでなく人のセクシュアリティまで踏み込んで、挙句に何度も気持ち悪い呼ばわりするなんて…。いくら親だとしても許されることなのか。


元々親からのストレスのせいで『食事』が苦手だったが、その日をキッカケに俺はほとんど食事というものが出来なくなっていた。