柏くんの美味しい愛し方



寝て起きて学校行って部活やって帰って寝る、寝て起きて学校行って部活やって帰って寝る。それの繰り返し。

あれからどの食事をしても吐くことはない。最後に柏くんと会った日からあまり食欲は無いけど、基本どんな物でも食べられた。ただ、家では親と食事を摂りたくないからまだ食べられない体でいる。母さんもそれについて深追いすることはなく、ただただ俺に興味が無くなっているようだった。今ある興味も、俺の成績と世間からの息子の評価だけ。

そんな日々でもよかった。むしろ気にされない方がいい。

でも…そんな時、やっぱり頭の中には柏くんの姿が浮かぶ。初めて俺に寄り添ってくれた人。初めて食事をしてて楽しいと思えた人。初めて、「なんてことない」って顔して受け入れてくれた人。初めて大事にしたいと思った人。

柏くんには…気にされたいと思っちゃうんだよ。

「…会いたい」

なんて思いふけっている内に、気が付けば夏の大会当日になっていた。練習は毎日怠ることなくこなして来たし、食事もできるようになったおかげで以前より体調もいい。ただ、こんな大事な日に限って朝からイマイチ調子が出ないようだった。

大きな会場に着いてバスを降りると、他校の生徒達も既に到着しているようだった。騒がしい雰囲気と、やる気を通り越してもやはや殺気まで感じるピリピリとした空気に、まるで背筋が透き通るような思いだ。

集中しないといけないのに、試合の日に限っていつもより頭に浮かんでくるあの人の笑顔。考えないようにするため、試合に集中するためにミーティングを終えてから席を立った。

「あれ、水見どこ行くの?」
「ちょっと外周走ってきます、すぐ戻ります」
「俺らは2試合目だからって体力削りすぎるなよ」
「はい」

先輩からの注意も受けてから、一人で会場の外へと出た。大きな所だし、ウォーミングアップで建物の周りを走るには丁度いい。と言っても、体を動かしたいというより頭の中のモヤモヤをとっぱらいたい一心だった。

もしこのまま…柏くんと話さない日が続いたら、前みたいに笑って一緒にいれなくなるのかな。

そんな不安まで頭をよぎり、ぶんぶんと首を振ってストレッチをした。

「…ダメだ!よし、集中…」

そして両頬をパンパンと叩いて深呼吸した…時だった。視界の中に、見覚えのある薄ピンクの髪色が目に入ったのは。

「……え、」

その人はどんどんこちらに向かって歩いてくる。涼しげなTシャツと大きめのデニムを履いて、腕時計とネックレスまでつけている。初めて見るオシャレな私服姿。じゃなくて…なんで彼がここにいる?

「あ…、いた!水見!」
「か、柏くん…!?なんで、ここに」

やっぱり、その人物は柏くんだった。俺が一番会いたいと思ってた、でも会いに行けなかった人。