柏くんの美味しい愛し方


月曜日。今日も部活後に家庭科室へ行く。その時、柏くんにお礼を言おう。人並みに食事ができるようになったって。きっといつもみたいに笑って「よかったな!」って喜んでくれるはず。

ただ、それを言ったら、柏くんが今みたいに家庭科室でご飯を作ってくれることは無くなると思う。正直寂しいけど、ずっと続けていける訳じゃないもんな。それに、もしそうなっても柏くんと友達であることには変わりはないし、彼さえよければ時々でいいから手作り料理を食べさせてほしいとお願いするつもりだ。

他の物が食べられるようになっても、やっぱり俺は柏くんが作る料理が一番好きだから。

「水見ー、最近、顔色も試合中の動きも良くなったな!」
「ありがとうございます、監督」
「よし、この調子だ!夏の大会、全員で優勝狙うぞ!」
「はい!」

今日に至っては、お昼に友人達と購買で焼きそばを買って食べることができた。珍しく購買で買ったものを食べてる俺を見て友人達は驚いた顔をしていたけど、食欲が出たことを喜んでくれていた。早く柏くんにも報告したいな。

「おつかれ〜水見」
「お疲れ!また明日」

部活が終わった後、急いで家庭科室に向かった。扉の前まで来ると、味噌のような香ばしい香りがしてきた。

「おー!水見、ちょうど今できたとこだよ!おつかれ」
「…ありがとう、いい匂いだね」
「今日はな、豚汁!豚肉は疲れも取れるし、野菜たくさん入ってるから栄養満点だ!試合に向けて体力つけなきゃな」

中へ入ると、柏くんがエプロン姿で豚汁を鍋からお椀によそっていた。もうこのエプロン姿も見れなくなるのかな、と思うと寂しい。でも、これから先俺だけのものになってくれる訳じゃないから…どこかで踏ん切りをつけないと。

鞄を置いていつもの席へ座ると、柏くんも目の前に座った。こうやって俺の隣か目の前に座って、食べる所をニコニコ見てくるのがお決まりだったな。

「あのさ、柏くん…」
「ん?どうした?」
「俺、ご飯食べられるようになったんだ」

目の前にある豚汁に目線を落としながらそう言うと、一瞬時が止まったような静寂が流れた。不思議に思い顔を上げたら、柏くんが目を大きく開いて固まっていた。

あれ、どういう表情だろう…?びっくりしてる…?

「食べられるって…俺の飯だけじゃなくて?」
「あ、う、うん!お店ご飯も、購買で買ったものも…吐かずに食べられるようになったんだ」
「…あ、マジか、そう、なんだ」
「うん、柏くんのおかげだよ。毎日のように俺に美味しいご飯作ってくれたから、体がだんだん受け入れるようになったんだと思う。本当にありがとう」

てっきり、食べれるようになったことは喜んでくれると思ったのに。柏くんは心ここに在らずな様子で、下を向いている。おかしな事を言っていないよな…?と焦ってしまうほど、感情が読み取れない。

「あ、あの…?柏くん?」
「……あ、ごめん。ボーッとしてて」
「いや、大丈夫だけど…。あ、あの、やっぱり今までかかった材料費払うよ!前は大丈夫って言われたけど、柏くんの負担が…」
「い、いらねえよ!そうじゃなくて…、そう、じゃなくて…」

こんな取り乱してる柏くんを初めて見た。焦ったような戸惑った顔も…。何を思ってるの?俺はどうしたら…。

「…っごめん」

すると、柏くんが静かに口を開いた。謝罪の意味が分からず固まっていると、エプロンを剥ぎ取って柏くんは扉へと歩いて行く。

「この先ずっと…俺の料理しか食えなくなればいいのに…なんて思っちゃったんだ」
「…っえ、」
「こんな不謹慎なこと思ってごめん、食ったら器は流しに入れといて」

苦しそうに呟いて、柏くんは家庭科室を出て行ってしたった。なんで、あんなことを言ったんだ…?不謹慎とかは思わなかったけど、真意が分からなくて混乱してる。

今のは、どういう意味…?

でも、あんな苦しそうに言ってたんだ。絶対何か思ってるはず…なのに。追いかけられない。彼の本音を聞くのが怖い。あんな柏くん、初めて見たから…。

気持ちを落ち着けたくて豚汁を1口啜ると、いつもの柏くんの味がした。俺のために栄養を考えてくれたんだろうか。

俺を安心させてくれる、心まで包んでくれて全身が喜ぶこの味…。

「…柏くん」