柏くんの美味しい愛し方



家庭科室で初めて話した日から3ヶ月が経つ頃。ほぼ毎日部活後に柏くんが作った料理を食べて食事に慣れてきたのか、ようやく1人前が無理なく食べられるようになった。

それがあまりに嬉しくて、部活にも力が入った。むしろパワーがみなぎってくるみたいだ。夏の試合が目の前に迫ってきてる今、練習量も増えてきているが以前のような無気力感もなくなっていた。

柏くんとは、ご飯を食べながら色んな話をした。下校時間までの僅かな時間だけど、なんてことない雑談をしたり部活のことを話したり、お互いのプライベートのことも。俺の家の事情を話した時は、少し悩ましい様子だったけど「でもこれからは俺がついてるから大丈夫だな!」なんて、頼もしいことまで言ってくれた。彼なりに寄り添ってくれたんだろう。

柏くんへの気持ちは本人に悟られないように隠しているけど、時間が経つほど自分の中で積もり積もっていく。友達として一緒にいれればいい、大事にしようって思ったのに、心は中々言うことを聞いてくれないみたいだ。焦がれていてもどうしようもないことなのにな。

「…定食屋、試してみようかな」

でも、いつかは区切りをつけなければいけない。もし俺がしっかり食事ができるようになったら、家庭科室で会うことも無くなるだろう。寂しいけど、そんなの嫌だけど…ずっと縋っていても仕方ない。いつかは諦めをつけなきゃいけないなら、今のうちから慣れておかないと…。

休日の練習終わり、たまたま通りがかった定食屋に入ってみることにした。柏くんのご飯も1人前食べられるようになったから、もしかしたら他のご飯もいけるかもしれない。実際、前ならメニューを見たり店からの匂いを嗅いだだけで気持ち悪かったが、今はそれがない。むしろ腹の音が鳴っている。

念の為、白米を小盛りにしてさば定食を頼んだ。久しぶりに柏くん以外の人が作ったご飯を食べる。外で食べるのもいつぶりだろう。緊張したけど、意を決して小さく切ったさばを口の中に放り込む。

「…っ!あれ、大丈夫、みたい」

その後に白米も口にしてみたが、前のような胃液が上がってくる感じも吐き出しそうな感覚もない。食事ができる。

俺は、普通にご飯が食べられるようになったのか。

柏くんのおかげだ…。毎日のように俺に料理を振舞ってくれたから、いつも一緒にいてくれたから…体が食事に対して嫌悪感を持たなくなったのかもしれない。