柏くんは男女問わず誰かと一緒にいる事が多いし、いつも人との距離が近い。その日から学校内で彼と目が合っても、話しかけられる前に避けるようになった。この醜い気持ちが湧き上がってくるし、行き場のない想いも消化することができないから。彼が他の人といる所を出来るだけ見ないようにするしかなかった。
「よぉ!水見、おつかれ!」
「あ…おつかれさま。柏くん」
目を見てしっかり話せるのは、放課後のこの時間。家庭科室でだけ。ここは俺と柏くんだけの空間。他には誰もいないから醜い気持ちも顔を出さないし、彼の視線が俺にだけ向いてるのが嬉しい。
「ほら!今日はー…ミニお子様ランチ!」
そう言って目の前に出されたのは、小さいオムライスに人参のグラッセが添えられて、可愛い旗が立てられたプレートだった。可愛すぎて思わず吹き出すと、柏くんは俺の顔に近付いてじっと見つめてきた。
「な、なに?」
「いいからいいから!ほら、食べてみてよ」
「うん、いただきます」
旗を倒さないようにスプーンで掬って1口食べてみた。卵が半熟、ケチャップライスのケチャップは少し薄めでコンソメとバターが効いてる味付けだ。美味しくて思わず顔が緩む。
「美味しい!」
そう伝えると、柏くんは満足そうに笑って俺の頭をクシャクシャと撫でた。いくら気にしてドライシャンプーを髪に吹きかけていると言っても、部活で汗をかいたことには変わりないのに。柏くんはそんなことも全く気にしていない。
元々自分のテリトリーが無さそうな人だったけど、最近はこういうスキンシップも増えてきてこっちがドキマギさせられてしまう。それと同時に、ドキドキしてるのは俺だけか、と虚しくもなるけれど。
「やっぱさ、俺の料理だけは無理なく食べられる感じ?」
「うん、本当に不思議だよね。まだ他のものは難しいけど…なぜか柏くんの料理だけは食べれるし、何より美味しいって心から思うんだ。食事がこんなに楽しいって思えたの初めてだ」
「そっかそっか…!ならよかった。バスケは調子どう?」
「ここでご飯を食べられるようになってから、調子いいよ。体も重くないし試合の成績も良くて…夏の大会も近いし、俺スタメンだから頑張らないといけないからさ。柏くんのおかげだよ、ありがとう」
「いいんだよ、そんなの。今は弟と水見のために飯作ってる時が一番楽しいんだ」
「…そ、っか」
ご飯が美味しいと感じて、この食事の時間が楽しいと思える。生まれて初めて感じる温かさ。柏くんが笑いかけてくれたら胸がキュってなる。だから失いたくないのに…。
「てかさ、水見ってここ以外だと学校で会っても話してくれないよな?」
その言葉を言われた途端、心臓が跳ね上がった。いつも誰かといるから、特にこっちのことなんて気にされていないと思ったのに。
「あー…、なんか、柏くんはいつも友達といるから…邪魔しちゃダメかなって」
あくまで自然に答えないと。挙動不審になったらダメなのに。
「えー?別に邪魔とかねーし、喋ってくれていいんだぞ?話しかけようとしてもすぐどっか行っちゃうのって、それ気にしてたのか?」
「あ、いや…」
「俺みたいな問題児とは仲良くしてるとこ見られたくねーのかなって思ってたけど…」
「…っ!ない!それはないよ!そんなこと思ってない!!あっ…」

