でも、特別な感情を抱いた所で何か起きるはずがない。そもそも男が恋愛対象であることは学校では隠すつもりだし、恋人とかも夢のまた夢だって理解してるからそういう欲もない。だから、柏くんに対しても“ただ会いたい”と思う。それだけでいい。
彼の作った料理が食べられて、彼に会えるだけでいいんだ。
「水見くん、最近顔色良くなったね」
「ほんと?ありがとう」
「うん!部活の練習も調子いいし!」
普段、放課後以外で柏くんと話すことはない。俺みたいな大人しいタイプが話しかけられる人ではないし、柏くんの周りにはいつも派手めな色んな人がいるから。男でも女でも…。
その日、俺が廊下でマネージャーと部活のことを話している時、偶然柏くんとギャルっぽい女子が仲良さそうに腕を組みながら歩いてきた。柏くんは遠くからでも俺に気付いて、「あっ水見!」と声をかけた。でも、腕にべったりくっついてる女子とそれを受け入れてる柏くんの2人を見たら、胸がムカムカしてきて…。俺は軽くお辞儀をしてその場を足早に離れてしまった。
せっかく声をかけてくれたのに、あの光景を直視できなくて。すぐに離れたいと思ってしまった。ただ会えるだけでいいと思っていたのに…。
分かってる。彼が優しくて明るくて人当たりもよくて、家族思いな素敵な人だってこと。喧嘩だって、派手な格好が好きでしていたら先輩や他校の生徒にふっかけられただけで売られた喧嘩しか買わないと言っていた。それでも喧嘩を買うのは危ないんじゃないか?と言ったら、弟が高校生になった時いじめられたり馬鹿にされないように…だって。兄貴が強かったら盾になるかもしれないし、もし何かあっても助けてやれるからって。
そんな人だから、女子にもモテるに決まってる。彼女を作ることだって困らないだろう。そんなの初めから分かってたことだ。特殊なのは自分だけで、周りはみんな“普通”なんだから。
もしこの気持ちが柏くんにバレたら…きっと嫌われてしまう。あの俺だけの幸せな時間も終わってしまうかも。
だから知られちゃいけない…。

