柏くんの美味しい愛し方


その日以降、俺は部活終わりに家庭科室に立ち寄るようになった。生徒がほとんどいない時間、静かな校舎に漂う料理の匂い。ある日は親子丼、ある日は煮物、ある日は餃子と、メニューはその日にならないと分からない。行ってから分かることが楽しみにもなっていた。

そして不思議なことに、柏くんが作ったものはどんなメニューでも吐くことなく食べられた。まだ完食はできなくて申し訳ないけど、少しずつ食べれる量も増えていき、わずかに体調も良くなってきた気がする。実際、部活中にふらつくことが格段に減って集中力も戻りシュート率もリバウンド率も上がっている。少しでもご飯が食べれるだけでこんなに違うのかと、毎回驚かされた。

「おー水見おつかれ!早く座れよ」
「うん、ありがとう」

最初は毎回料理を振舞ってくれることに申し訳なさを感じていたし、材料費を払うと言ったけどキッパリ断られてしまった。彼が言うには、母親が夜職で稼ぎがいいのと自分もバイトをしてるから生活はキツくないし部費も払えてるから気にすんなとのこと。父親は子供の頃に出て行ったらしく、ずっと母親と柏くんと弟の3人暮らしらしい。

「今日はー、じゃん!ハンバーグ!ほら、食べてみろ」
「わぁ…すごい。いただきます」

今日出されたお皿には、食べやすい1口サイズに作られたミニハンバーグが4個乗っていた。1つ箸で取って口に入れると、肉汁とソースの香りが口の中に広がった。こんなにダイレクトにお肉の味を感じているのに、胃もたれしそうな感じもない。

「わぁ、美味しい…!」
「ほんとかー!?っしゃー!」

本当に不思議だ、柏くんの料理には魔法がかかっているのか…?家のご飯でハンバーグが出た時は、こんなに美味しいって感動しなかったのに。そもそも、叱られながら食べていたから母親が作るハンバーグの味も覚えていないけど。

柏くんは、いつも隣に座って俺が食べるところをニコニコしながら見てくる。そして時々、「もーらい」と言って俺が食べてる器から料理を摘んだりもする。適当な雑談をしたり、そんな他愛もないことをしながら食べるこの時間が楽しかった。

それに、話せば話すほどリトルデビルなんて呼ばれるイメージとはかけ離れていると分かった。

柏くんによると、去年までは遊び呆けたり授業をサボったり好き放題していたらしく、部活なんてもちろんクソ喰らえだったらしい。でも、中学生になった弟が突然買い置きのご飯を食べなくなり、食欲も無くなってしまって元気が無くなった。家に誰もいない寂しさと、手料理が食べれない虚しさでそうなってしまったらしい。

だから、料理の練習をして弟に手料理をたくさん食べさせて元気にしてやりたいと思い家庭科部に入ったと、雑談の中でそう聞いた。

それから部活後はすぐ家に帰り、弟にご飯を作ってバイトが無い日は一緒に食べているそうだ。

「柏くんは、すごく優しくて…人に寄り添ってくれる人だね」

話を聞いてからそう言ったら、柏くんは軽く吹き出してから照れくさそうに鼻をすすっていた。「よくそんな恥ずいこと言えるな、そんなん言われたの初めてなんだけど」と呟きながら。

でも、その後

「ありがとな!水見にそう言われたら、なんか嬉しい!」

って言って、ほっぺを膨らませて眩しいくらいに笑うから。俺は、その笑顔から目が離せなかった。

あまり考えないようにしていたのに。柏くんが作ったご飯が食べたいと思って通っていた家庭科室にも、いつからか…“柏くんに会いたい”その理由が1番で通うようになっていた。