高校1年生。初恋グミは優しい味でした。

②もっと仲良くなりたい


昨日は家に帰ってから、心配したお父さんとお母さんに病院に連れて行かれてしまった。優征くんと同じように、大丈夫だと僕が言ってもウチの両親も聞かない。結果は捻挫で、首にサポーターを巻くように処方されてしまった。お医者さんも大袈裟で困った。

「葵。高校まで車で送る」

スーツを着たお父さんが、朝食のシャケを捌きながら言う。

「……友達。が来てくれるから大丈夫」

僕は味噌汁を啜りながら答えた。

「もう友達ができたのか! じゃあその子も一緒に送ろう。お父さん、挨拶するぞ」

そわそわと嬉しそうなお父さんに慌てた。友達になって2日目で親と挨拶なんて重たい。引かれたくない気持ちが強くなる。

「いいって! 平気だってば! 自分で行くから! 」

しゅん、と寂しそうにしたお父さんに罪悪感が募り、朝食を慌ててかき込んだ。

「ちょっと葵〜? なにをそんなに急いで」

「いってきます! 」

お母さんの声を遮って、僕は家を飛び出た。気持ちは早足だったが、サポーターの足は少し引きづってしまい、ゆっくりとしか歩けない。でも大丈夫。昨日よりはよっぽど歩きやすい。一日経って治ってきたのかな。

下に降りると、優征くんはもう待っていた。おはよう、と僕が言っても、視線は足首のサポーターに釘付けだ。

「そんなに酷くなったか? 」

心配と罪悪感を滲ませた顔に、申し訳なくなってくる。

「ううん! ただの捻挫! 念の為ってお父さんに病院へ連れて行かれちゃって、サポーターされちゃって。そんな痛くもないし大袈裟なんだけどね」

最大出力で明るく言う。これだから目に見える怪我は嫌なのだ。みんなに気を遣わせてしまう。痴漢のことは誰にも言っていないからバレないのに。

「歩けるのか? 車とかのが……」

また難しい顔。昨日見せてくれた同じ年の顔はまぼろしだったんじゃないかと思えるほど、その難しい顔の方がよっぽど板についているように見えた。

「そんな痛くないし歩けるけど……早くは歩けないから迷惑だった?」

迷惑だと言われたら立ち直れない。手のひらをぎゅっと握って、ブレザーの袖で隠した。

「俺が誘ったのにそんなわけないだろ。俺のことまだ怖いか? 」

優征くんは言ってから、はっとしたように唇を堅く引き結んだ。難しい顔は迷宮入りした。怖い、と言われるのが嫌で、聞かずにはいられなかったんだと気づく。なんだ、手探りなのは僕と一緒だ。友達だもんね、と心の中でうなずく。

「怖くないよ! ゆ、優征くんは、優しいよ! 」

下の名前を昨日呼んだけれど、今日また呼ぶのに緊張した。日付を跨ぐと、日が浅いうちは親しみが薄れてしまうような気がして。昨日は許された下の名前を呼ぶことが、今日は許してもらえるか不安になる。

「そうか? 葵の方が優しいだろ」

難問を解き終えたような優征くんの顔に安心して、僕はようやく気づいた。自転車を持っていないことに。

「僕は全然。そういえば自転車は? 」

「今日は紬のお迎えは親が行ってくれるから置いてきた。葵と歩くのに邪魔だし」

そっか、と返事をするとようやく一緒に歩き出した。気がつけば、ジリジリとした太陽に当てられて、僕も優征くんも額から汗を流していた。それに気づかないくらいには、今日も友達でいてもらえているか、僕は不安だったのだ。

「毎日お迎えするわけじゃないんだね」

「週の半分くらいだな。親がどっちも行けない時だけ俺が。……俺が兄弟を欲しがったから、俺が行くって言い出したんだ。強制されてるわけじゃないから」

優征くんは言う。頑なな声に聞こえた。

「そうなんだ。じゃあ遊べる日もあるんだね」

毎日お迎えなんてちょっとシンドいんじゃないかと思ったから、優征くんが高校生らしく過ごせる日もあるのだとわかって、よかったと思った。

「俺と遊びたいってこと? 」

優征くんから出たのか思わず確認したくなるくらいの弾んだ声で聞かれて、え? とぱちくりしてしまう。

「遊びたくないの? 」

今度はムッとした声。僕は慌てた。

「あ、遊びたい! 遊びたいよ! 」

「じゃあ今日の放課後遊ぶか」

一等星の笑顔を見せてくれた。友達ってすごい。

「あ、うん」

優征くんの距離感がよく分からない。昨日会ったばかりなのにもう遊びに誘われた。これって都会の高校生には普通なのかな。