高校1年生。初恋グミは優しい味でした。

肩を貸してもらいながらゆっくりと歩いてたどり着いたのは、駐輪場だった。

「俺、自転車だから」

飛田くんの自転車の前ハンドルには、子ども用の椅子が付いていた。シルバーの大人用自転車に、お姫様みたいなミルキーピンク色の子ども用の椅子。親の自転車で来たのかな? と思っていると、飛田くんは自嘲するように言った。

「保育園児の妹の送り迎え用の椅子が付いてる。俺はもう大人だから送り迎えをしているんだ。……ダサいだろ。妹はまだ4歳だから」

飛田くんは言う。

なるほど。飛田くんの自転車なんだ。

「家族を大事にしてるんだ。偉いね」

「……似合わないって笑わねーのな」

言い淀むようだった。

「うん。なんで笑うの? 」

キョトン、とすると飛田くんはふいっと顔を背けた。

「後ろ乗れよ。 足痛いんだから。保育園行った後になるけど、送って行ってやるよ」

「え、いいよ。僕はひとりで歩けるし、妹さん待ってるんでしょ」

申し訳なくて後ずさる。

「いいから乗れ! ……高いところをやっているのに俺が気づかなかったから日下は怪我したんだ」

ドン、と強引に後ろに座らされた。

そんなふうに思っていたの、と驚く。僕がドジを踏んだから怒っているんだと思っていたのに、自分のせいだと思い詰めていたなんて。飛田くんが責任を感じる必要なんてまったくないのに。前に座った背中は、大きかった。

「ちゃんと掴まっとけ。警察に見られたらヤバいからその時は降りろよ」

「わかった。……ありがとう」

田舎じゃそんなこと言われたこともないけれど、都会は何かとルールに厳しいみたいだ。

ゴツゴツとした背中に、おずおずと腕を回してみる。近いな、と心が少しピンとした。距離的には肩を貸してもらった時と変わらないはずなのに。

スイスイと漕ぎ出した自転車は、しばらくふたりとも無言だった。東京の街中は朝よりは人が減っていたけれど、地元と比べたら信じられないほど多い。コンビニもファミレスも高層ビルも大型モニターもあって、ここにはなんでもあるような気がしてくる。僕が大苦戦した人波を、飛田くんは自転車でスイスイと器用に抜けて行く。やがて繁華街を抜けて裏道に入った。人の数がめっきり減ったから、口を開いた。

「僕が怪我したのは飛田くんのせいじゃないよ。僕、ぼーっとしてるって言われるから、ごめんね」

初対面のクラスメイトの面倒まで抱え込んだら、疲れちゃうよ。

「……妹の迎えで急いでて感じ悪かっただろ。俺こそごめん」

気まずそうに、飛田くんは言う。

んーん、と葵は首を振った。車輪の回転の音だけが響く。後ろは見えないことにようやく気づいて慌てて言った。

「感じ悪いなんて思ってないよ! 」

本当は、仲良くなれて嬉しいけれど、そんな親しげなことを言ったら迷惑かもしれないと思って言えない。

静かな裏道を抜けると、のどかな住宅街に入った。繁華街、裏道、住宅街。人の数も様子も、クルクルと表情を変える東京に驚く。20分くらいしか走っていないのに。

「3県くらい跨いだ感じ」

よく考えれば、田舎の地元とこの東京も地続きだ。それも不思議だ。

「繁華街以外は東京もこんなもんだぞ」

「田んぼとかないけど」

見渡す限りのコンクリート地面。小さな公園ならあるけれど。

「ある所にはある」

「この辺はないんだね。通学中に田んぼに落ちる心配はないね」

「落ちたことあるの? 」

「うん。ぼーっとしてるとすぐドボン。自転車ごとドロドロ。替えのパンツは絶対カバンに入れてた」

僕が言うなり、飛田くんはハハッと声を上げた。――笑った。おもしろい話をしたつもりはないけれど、笑ってくれて嬉しい。だから僕も笑った。後ろからだから、飛田くんの表情はよく見えないのが残念だ。