高校1年生。初恋グミは優しい味でした。

空気は刺すように冷たくても、東京ではあまり積雪しない。昨日の夕方に東京に戻ってきて、今日から待ちに待った登校日だ。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

お母さんに声をかけて、マンションの扉をくぐると、白いモコモコのマフラーを巻いた優征くんはもう待っていてくれていた。新鮮な冷たい空気をたくさん吸い込んでから、優征くんの隣に並んで歩き出した。ゆっくりとその空気を吐き出す。ぬるくて、少しずつ白く溶けていく。

「なんか久しぶりだな」

一言目をさまよっていると、優征くんは話しかけてくれた。

「ね、久しぶり」

冬休みは2週間だったけれど、半年ぶりにあったおばあちゃんよりも、久しぶりに会った気がした。

「優征くんは、背伸びた? なんか……」

ごくり、と唾を飲んで、言う覚悟を決める。

「カッコよくなったね」

頑張った。少し前までカッコいいと本音を言うことは難しくなかったのに、もう頑張らないといけなくなった。カッコよくなるまでの優征くんを、冬休みのせいで見逃したかな、と戻れない後悔が落ちる。それは寂しいと言うことだと、おばあちゃんは言っていた。

「そう? 葵は可愛くなったな」

馴染ませた白い息で、優征くんは僕の顔を覗き込んできた。

「そんなわけないじゃん」

瞳を返せずに背けた。

「あるよ。2週間でも変わるんだな。冬休みにも会いたかった」

「うん。僕も」

同じ気持ちで嬉しかった。2週間ぶりなのだから、喋ることも聞きたいこともたくさんあるはずなのに、ふたりともたいして喋らずに登校した。静寂は、隣の優征くんの輪郭を強めた。どこか新しくなった優征くんはまるで初対面のようで、緊張と新鮮を覚えて、まだ慣れない。でも新しい優征くんとも出会えて嬉しい。一挙手一投足、一言一句にマーカーを引かれているみたいに、強く意識してしまう。優征くんも同じだと、いい。

意識を持っていかれて、いつも立っている電柱に思い切りぶつかった。

「痛っ! 」

「大丈夫か? 」

新しい優征くんも優しくて、ドジな自分が古いままみたいで、恥ずかしい。オデコの赤みはすぐに引いた。

教室に入ると、前野くんが元気いっぱいに手を振ってくれた。

「飛田! 日下! 久しぶり! なんてあんまりそんな感じしないな!」

「「そんなことない(よ)」」

優征くんと僕の否定はハモった。

「相変わらずだね、おふたりさんは」

緩やかに笑う風見くんは変わらない。

眠そうな足取りで、住田くんも登校してきた。髪の毛がニワトリのようだ。

「住田、髪型ヤバくね? 」

さっそく前野くんがツッコんだ。

「寝坊しちゃってそのまま送ってもらったからまだ眠い。髪ヤバいんだ」

前野くんはいつもに増してスローペースで話した。

横から澤くんが来て、ヒョイっと手鏡を出していた。黒くてシンプルだけど、丁寧に作られているのが見ただけですぐにわかるものだった。

「はい鏡」

「あ、まじでヤバいね。……ま、いっか別に」

住田くんは鏡の前で一度は足止めされていたけれど、すぐに席に着いた。良くは無いだろう、と住田くんと僕以外の顔にははっきりと書いてあった。

「澤くん、おはよう。ステキな鏡だね! 」

「日下! センスあるね! この鏡はね……」

澤くんと鏡の話をしながら、僕は思った。たしかに、優征くん以外のみんなは特に変わったようには見えなかった。