冬休み前のテストが終わって、テスト返却も終わった。今日が年内最後の登校日だ。テスト順位を張り出した掲示板を見に行くと、相変わらず1位は優征くんで、2位は風見くんだった。教室の机で、自分の順位表をこっそり見る。僕も真ん中より上くらいをキープできていて、一安心だった。僕も結構勉強したのに、この学校の人たちはやっぱり勉強熱心だった。
前野くんは嬉しそうに答案を机に並べていた。
「よし! 赤点なし! 平均点いったのもある! 」
「よかったね」
僕が相槌を打つと、前野くんは満足そうに強く頷いた。
「これで褒めてもらえる! 」
「お父さんお母さんに? 」
「ううん、先生! 」
教室のドアがガラリと開いて、佐合先生が入ってきた。
「帰りのホームルームはじめるぞ〜。日直〜」
日直の澤くんが号令をかける間も、冬休みの注意事項についての間も、前野くんは終始ニコニニコニコと佐合先生を見ていて、存在感を放っていた。隣の席の僕でさえその視線が気になり、チラチラと見てしまった。
「なんだ? 凛輝」
佐合先生は細かく振り返っては、何度かこう聞いた。誰でも聞かずにはいられないと思う。
「ううん! 別に! 」
前野くんは元気いっぱいだ。
佐合先生は怪訝な顔のまま、冬休み前のホームルームを終えた。終わりの号令がかかり、佐合先生が教室を出て行ってすぐだった。
「じゃあまたな! 」
前野くんは小走りで出て行った。手には答案を抱えながら。やっぱり佐合先生に褒めて貰いに行くんだね。
「熱心だねぇ」
後ろの席の住田くんの呟きに、僕も頷いた。住田くんは休み前の大量の荷物をリュックに詰めている。
窓際からツカツカと長い脚がやってきた。制服の上から白いモコモコのマフラーも巻いて、帰り支度を済ませた優征くんだ。
「葵、今日俺お迎えだから」
「うん。僕も行く」
「日下は初詣来れないんだろ? 良いお年を! 」
隣の席の風見くんが、バッグを持ちながら言ってくれる。テスト週間が終わったから、部活も再開しているのだ。
「風見くん、良いお年を」
除夜の鐘を聞いて、そのまま5人で初詣に行こうと誘ってくれたのは前野くんだった。僕も行きたかったのだけれど、父の休みに合わせて、冬休みはほぼ田舎に帰る予定だ。田舎には行かない、とは両親に悪くて言い出せなくて、僕も帰ることにしたのだ。
「住田くんも、良いお年を」
荷物に苦戦している住田くんにも声をかける。
「住田、それじゃ入らないだろ。貸してみろ」
見かねた様子の優征くんは住田くんのリュックを奪うと、一度全ての荷物を全部出した。そしてテキパキと詰め直して、あっという間にすべて収めてしまった。
「ありがとう! 」
びっくりしている住田くんはレアだ。
「すごいね、優征くん」
手際の良さに拍手をした。
「どうも。こういうことは得意なんだ俺は」
なんでも出来るよね、と思ったけれど、クラスでなかなか友達を作れなくて悩んでいた優征くんを思い出した。文化祭のことがなくても、優征くんのことだから、どこかできっと友達ができていただろうけれど。優征くんのような真面目な人に、“なんでもできる”などと軽々しく言うのは、褒めていない気がして言わなかった。優征くんが“得意”と言うことには、努力があるのだと僕は知っている。
「じゃあな、家の年末の大掃除もちゃんとやれよ」
優征くんが軽く片手を上げた。僕も住田くんも手を振った。優征くんとふたりで、教室を後にする。
「今日はゆっくりでも大丈夫だから」
「うん」
駐輪場まで、いつもよりもゆっくりと歩く。
ミルキーピンク色の子供用椅子のついた自転車を引く優征くんと、教室の延長のような話をする。宿題の範囲だとか、冬休みが終わったらまたテストだとか、そんなスケジュールの確認のような会話でも、楽しかった。あっという間に保育園に着いた。
「にぃに、あおいくん! 今日は早いね! 」
先生が確認をしている横で、紬ちゃんは手を振っている。確認し終わった先生は紬ちゃんに向かってかがんだ。
「紬さん、ではまた明日。ちゃんとコートを着てから帰ってね」
「はーい! 」
いい子にお返事をした紬ちゃんは、軽やかに荷物棚へ移動する。紬ちゃんはダッフルコートの上から、まっしろでモコモコのマフラーを巻いた。優征くんとおそろいの。
優征くんが紬ちゃんをピンク色の椅子に座らせて歩き出してから、僕は言った。
「2人ともおそろいで可愛いね」
「でしょ! ママが買ってきてくれたの! 」
紬ちゃんはキラキラとプリンセススマイルを見せてくれる。一方の優征くんは、軽く眉間にシワが。
「こんな年の離れた兄妹に同じものを買ってくるとか……。しかも俺の好みはガン無視だ。紬の趣味も入ってないし、母の趣味丸出しだ」
「でも2人とも似合っているよ」
文句を言いつつも身につけている優征くん。お母さんの気持ちも大切にしているからだろう。
「まぁ! うれしいわ! ありがとう! 」
エアスカートでお辞儀をしてくれる紬ちゃん。
「温かいしな」
優征くんは、ボソッと照れくさそうに呟いた。この表情は、マフラーをプレゼントした優征くんのお母さんが見るべきだ、と思った。でも同時に、僕にください、とも思った。
前野くんは嬉しそうに答案を机に並べていた。
「よし! 赤点なし! 平均点いったのもある! 」
「よかったね」
僕が相槌を打つと、前野くんは満足そうに強く頷いた。
「これで褒めてもらえる! 」
「お父さんお母さんに? 」
「ううん、先生! 」
教室のドアがガラリと開いて、佐合先生が入ってきた。
「帰りのホームルームはじめるぞ〜。日直〜」
日直の澤くんが号令をかける間も、冬休みの注意事項についての間も、前野くんは終始ニコニニコニコと佐合先生を見ていて、存在感を放っていた。隣の席の僕でさえその視線が気になり、チラチラと見てしまった。
「なんだ? 凛輝」
佐合先生は細かく振り返っては、何度かこう聞いた。誰でも聞かずにはいられないと思う。
「ううん! 別に! 」
前野くんは元気いっぱいだ。
佐合先生は怪訝な顔のまま、冬休み前のホームルームを終えた。終わりの号令がかかり、佐合先生が教室を出て行ってすぐだった。
「じゃあまたな! 」
前野くんは小走りで出て行った。手には答案を抱えながら。やっぱり佐合先生に褒めて貰いに行くんだね。
「熱心だねぇ」
後ろの席の住田くんの呟きに、僕も頷いた。住田くんは休み前の大量の荷物をリュックに詰めている。
窓際からツカツカと長い脚がやってきた。制服の上から白いモコモコのマフラーも巻いて、帰り支度を済ませた優征くんだ。
「葵、今日俺お迎えだから」
「うん。僕も行く」
「日下は初詣来れないんだろ? 良いお年を! 」
隣の席の風見くんが、バッグを持ちながら言ってくれる。テスト週間が終わったから、部活も再開しているのだ。
「風見くん、良いお年を」
除夜の鐘を聞いて、そのまま5人で初詣に行こうと誘ってくれたのは前野くんだった。僕も行きたかったのだけれど、父の休みに合わせて、冬休みはほぼ田舎に帰る予定だ。田舎には行かない、とは両親に悪くて言い出せなくて、僕も帰ることにしたのだ。
「住田くんも、良いお年を」
荷物に苦戦している住田くんにも声をかける。
「住田、それじゃ入らないだろ。貸してみろ」
見かねた様子の優征くんは住田くんのリュックを奪うと、一度全ての荷物を全部出した。そしてテキパキと詰め直して、あっという間にすべて収めてしまった。
「ありがとう! 」
びっくりしている住田くんはレアだ。
「すごいね、優征くん」
手際の良さに拍手をした。
「どうも。こういうことは得意なんだ俺は」
なんでも出来るよね、と思ったけれど、クラスでなかなか友達を作れなくて悩んでいた優征くんを思い出した。文化祭のことがなくても、優征くんのことだから、どこかできっと友達ができていただろうけれど。優征くんのような真面目な人に、“なんでもできる”などと軽々しく言うのは、褒めていない気がして言わなかった。優征くんが“得意”と言うことには、努力があるのだと僕は知っている。
「じゃあな、家の年末の大掃除もちゃんとやれよ」
優征くんが軽く片手を上げた。僕も住田くんも手を振った。優征くんとふたりで、教室を後にする。
「今日はゆっくりでも大丈夫だから」
「うん」
駐輪場まで、いつもよりもゆっくりと歩く。
ミルキーピンク色の子供用椅子のついた自転車を引く優征くんと、教室の延長のような話をする。宿題の範囲だとか、冬休みが終わったらまたテストだとか、そんなスケジュールの確認のような会話でも、楽しかった。あっという間に保育園に着いた。
「にぃに、あおいくん! 今日は早いね! 」
先生が確認をしている横で、紬ちゃんは手を振っている。確認し終わった先生は紬ちゃんに向かってかがんだ。
「紬さん、ではまた明日。ちゃんとコートを着てから帰ってね」
「はーい! 」
いい子にお返事をした紬ちゃんは、軽やかに荷物棚へ移動する。紬ちゃんはダッフルコートの上から、まっしろでモコモコのマフラーを巻いた。優征くんとおそろいの。
優征くんが紬ちゃんをピンク色の椅子に座らせて歩き出してから、僕は言った。
「2人ともおそろいで可愛いね」
「でしょ! ママが買ってきてくれたの! 」
紬ちゃんはキラキラとプリンセススマイルを見せてくれる。一方の優征くんは、軽く眉間にシワが。
「こんな年の離れた兄妹に同じものを買ってくるとか……。しかも俺の好みはガン無視だ。紬の趣味も入ってないし、母の趣味丸出しだ」
「でも2人とも似合っているよ」
文句を言いつつも身につけている優征くん。お母さんの気持ちも大切にしているからだろう。
「まぁ! うれしいわ! ありがとう! 」
エアスカートでお辞儀をしてくれる紬ちゃん。
「温かいしな」
優征くんは、ボソッと照れくさそうに呟いた。この表情は、マフラーをプレゼントした優征くんのお母さんが見るべきだ、と思った。でも同時に、僕にください、とも思った。
