高校1年生。初恋グミは優しい味でした。

2日目の文化祭では、僕は執事服を着ることができた。僕のは“燕尾服”と呼ばれるタイプの執事服で、蝶ネクタイにライン入りのズボンだ。ジャケットの後ろ側には裾が付いているが、前にはなく、優征くんのモーニングよりは開放感のあるスタイルだ。一人で着られるし、やっぱり男の格好のほうがしっくりくる。

「葵、ここ髪はねてるぞ」

優征くんに指さされたところを撫で付けてみるけれど、ぴょんぴょん、と何度も立ち上がってしまう。

「やってやる。来い」

暗幕の裏の更衣室に設置したいくつかの机には、鏡とコンセントが置かれていた。みんなが身だしなみスペースとして使っている場所だ。そこに座らせられる。

シュッシュッと華奢なコームで丁寧に髪全体を梳いてもらう。気持ちよくてうっとりとしてきた。思わず目を閉じる。

「その姿でも気をつけろよ」

うっすらと目を開けると、優征くんは苦悶の表情をしていた。

「なにが? 」

もうスカートは履いていないから、スカートめくりはされない。

「そんなに無防備にしてたら攫われるぞ」

一瞬、聞き間違いかと思った。

「……されないよ?! もう女の子に間違えられることもないと思うし」

僕が反論すると、優征くんの眉間の皺は深まった。な、なんで? シュッシュッと、コームを通す音だけが響く。

「オイルつけていいか? 」

難しい顔のまま、優征くんは言う。

「うん。ありがとう。オイルなんて初めて」

優征くんが僕の髪に触れると、グリーンウッドの香りが漂ってきた。優征くんに似た、落ち着く香りだ。長い指にそうっと掬われると、その丁寧さにやっぱりうっとりとしてしまう。

「終わった。……葵のそばには俺がずっといるからいい」

諦めたようにため息をつかれて、首をかしげた。

「え? うん。ありがとう」

鏡で覗き込むと、執事そのもののように整えられていて、女の子をやっていた昨日とは、我ながら別人のようだ。優征くんのように頼りがいのある執事感は出ていないけれど、フレッシュな新米執事のようにやる気に満ち溢れていた。僕は今日が執事1日目だから、これもいい。

「ありがとう。カッコよくしてくれて」

満面の笑みになった。

「うん。メイド服もよかったけど、俺は男の葵の方が好きだ」

好き、と言われて心臓が跳ねる。

「あ、うん。僕男だからね。そりゃそーだよね」

変な返事だと自分でもわかっていた。

暗幕から出ると、みんなが僕を見た。どこか変かな? とソワソワする。

「日下! 執事服も似合うな。かわいいよ! 」

前野くんは即座に褒めてくれた。

「うん。癒し系の執事って感じでいいね。髪もキマってる」

風見くんまで言ってくれる。

「ありがとう。これは優征くんがやってくれて」

嬉しくなって、優征くんを指さした。すると、前野くんが優征くんの脇腹を小突いた。

「俺がしたんだから当たり前、とか思ってるんでしょ」

「当然」

腕組をして、優征くんは得意げだった。

他のみんなも、「かわいいよ! 執事も! 」とたくさん褒めてくれた。僕が昨日着ていたデコメイド服は、澤くんが着ていた。

「澤くん、すごくかわいいよ! 」

澤くんはメイクまでして、女の子になりきっていた。楽しんで着てくれた澤くんは、昨日の僕よりもキラキラと輝いていた。

「ありがとう! 俺、けっこうコスメとか好きで。いつか、女の子の服着てみたいと思っていたから、着させてくれてありがとう。日下も執事服、カッコイイよ! 」

澤くんにぶんぶんと手を取られる。

「うん! ピンクのメイク、メイド服と合っていてかわいいよ! 」

服に合わせて目元や口元をピンクにしていることくらいは、メイクに疎い僕にもわかった。

「日下ー!! できる男だよ! そんなこと言ってくれたのは日下だけだよ! 」

澤くんに抱きつかれそうになると、優征くんが飛んできた。

「やめろ。さりげなく抱きしめるな」

「チッ。ケチな騎士だな」

男そのものの舌打ちが澤くんから飛んできて、ふたりは小競り合いを始めてしまった。1日ですっかりクラスに溶け込んだ優征くんを見て、もうあの寂しい顔をしなくてすみますように、と僕は祈った。

そして2日目も大盛況の中、文化祭は幕を閉じた。