高校1年生。初恋グミは優しい味でした。

ホームルームが終わり、風見くんはバスケ部へ、前野くんは野球部へ、住田くんは漫画研究部へと散った。窓際で単語帳を捲っていた優征くんは、途端にパタンと閉じて僕の方へツカツカと寄ってきた。そのことに、僕はとても安心していた。席が変わって、昨日までみたいに帰れなくなるのかと怖かった。

「葵、帰ろう。今日はお迎えないから」

優征くんの表情は変わらない。ホームルームの大半と同じ顔だ。

「うん。もう僕と帰ってくれないかと思った」

少しだけ弱音を吐くと、優征くんは目を見開いた。

「そんなわけない。俺は葵と一緒にいるのが楽しい」

「よかった。僕もだよ」

僕は決してお喋りがうまくない。優征くんも、正直そんなに喋る方じゃない。でも、一緒にいると楽しいというか、とても落ち着くのだ。一緒に静かにしているのが心地いい。

一緒に学校を出て、いつもの帰路につく。優征くんはやたらと僕を見ては、いつもより更に無口だった。どうしたんだろう? と思っていると、同じ制服姿が少なくなったファミレスの横で、慮るように聞いた。

「あのさ、本当はメイド服なんて着たくなかったんじゃないのか? 」

ドキリとした。

「僕、嫌そうだった? 」

嫌々引き受けたようにみんなにも映っていたらどうしよう。盛り上げなくちゃいけないのに。

「いや、そうじゃないけど……。なんか、無理してるかなって、俺が勝手に思っただけ」

珍しく歯切れが悪かった。その推測は当たっている。けれどそれを推し量ることは、僕を傷つけると思って躊躇してくれているのだろう。優しい。僕は今度こそ心の底から笑うことができた。

「ううん! 大丈夫だよ! ちょっと戸惑っただけで。初めての文化祭、盛り上げないとね! 」

僕はガッツポーズをした。

「そうだな」

優征くんは少しホッとしたように笑った。心配をかけていたんだな、とようやく気づく。

転校初日に女の子に間違えられて痴漢されたことなど、誰にも言っていない。言えないし、誰にも知られたくないから。毎日優征くんと登下校できて、本当は安心している。たまにお母さんにおつかいを頼まれてひとりで歩く時、まだ怖い。またされたらどうしよう、と。そんなことはきっと起こらないと分かっているのに、怖がることまで含めて、とても恥ずかしいことのように僕には思えた。