3日後、僕は優征くんと一緒に紬ちゃんのお迎えへ行って、優征くんのお宅へ向かっていた。最近はお迎えがある日でも、帰りを誘ってくれるようになった。そのことが、嬉しい。優征くんがゆっくりと自転車を漕いでくれて、僕は早足だった。
飛田家の玄関に入るなり、園服姿の紬ちゃんは、靴を脱いで走り出そうとした。
「お仕事が終わったから、プリンセスに戻るのよ」
保育園のことをお仕事と呼んでいるらしい。
「プリンセス。靴をそろえるのを忘れているぞ」
優征くんは声で引き止めた。
「あら、つむったらいけない。ありがとう、王子様」
紬ちゃんは戻ってきて、靴を丁寧に揃えた。園服の裾をヒラリとつまんで、挨拶をする。
「どういたしまして」
やってあげる訳ではないんだな、と意外に思った。日ごろ、細々と世話を焼いてくれるから、紬ちゃんにはさらに全開だと思っていた。
「葵。玄関の段差、躓くなよ」
もう何度もお邪魔しているから知っているのに、優征くんは言う。足の怪我が治ったことは、優征くんも知っているはずなのに。けれどもまだまだ、怪我する奴、な印象が抜けないのだろう。初対面の印象は強く残るとも言うし。
「うん。ありがとう」
玄関を上がると、優征くんはリビングに続くドアを抑えて、先に通してくれる。
最近は優征くんの世話焼きを、居心地がいいと感じるようになった。
階段の上から紬ちゃんの声がした。
「王子様! プリンセスのファスナーを上げて欲しいの! 」
「はいはい」
慣れたように返事をした優征くんは、階段を上がって行ってしまった。リビングのダイニングセットに座らせてもらい、僕はぼーっとしていた。
しばらくしてタタタッとドアから駆け寄ってきたのは、ドレスアップした紬ちゃんだった。姫ピンク色で、頭にはティアラを載せている。優征くんも戻ってきた。
「あおいくん! 」
きゅ、と指を握られる。紬ちゃんは僕にすっかり慣れてくれた。
「どうしたの? 」
紬ちゃんの背丈に合わせて聞く。
「つむがね、考えたカワイイドレスを描いてほしいの! あおいくんはお絵描きが上手だって、にぃにが言ってた」
ビシッと優征くんを指さす。思わず見つめた。そんなふうに思ってくれていたなんて。
「上手いだろう? 」
優征くんはゆっくりと頷いた。
「ありがとう。絵を描くのは好きなんだよ」
褒めてもらえたし、前野くんには言えなかったことを言えた。
「いいよ。なにで描こうか」
ニコニコして、紬ちゃんに返事をする。
「これ! つむのなの! 」
渡されたのは、タブレット端末と専用のスタイラスペンだった。デジタルで絵を描くのは、僕もたまにやる。
「デジタルね」
紬ちゃんと並んで、リビングのテーブルに座らせてもらう。さっそく、優征くんがオレンジジュースとお菓子を出してくれた。紬ちゃんにはプリンセスのキャラクターがたくさん描かれたピンク色のプラコップ。僕と優征くんは、初夏の空みたいなブルーのグラスだった。底は透明で、縁にかけて青のグラデーションになっている。オレンジジュースが注がれている様はまるで。
「サンセットみたいでキレイだね」
ウットリとして言う。
優征くんは飲んでいたグラスを離して、見つめた。
「たしかにな。よくそんなこと思いつくな」
感心したように頷かれた。
「オレンジジュースに合わせて選んでくれたんじゃないの? 」
「たまたまだよ」
いい子にオレンジジュースを飲んでいた紬ちゃんが、目の前の個包装のなにかに手を伸ばした。フィルムに包まれていて、お菓子? だと思うけれど。
「これなに? 」
ランランと輝いた紬ちゃんの瞳は興味津々だ。
「グミでできた指輪だってさ。本当にはめられるって」
優征くんは答えた。
「王子様! はめて! 」
紬ちゃんは大興奮だ。
「はいはい」
優征くんは紬ちゃんの前にあったパッケージを破ると、指輪のグミを取り出した。宝石の部分はキラキラしたピンク色のグミになっていて、リングの部分はプラスチックでできているみたいだ。よくあるおもちゃの指輪のように、サイズが大きめだ。
スっと優征くんが指輪をはめると、紬ちゃんは、プロポーズされた女の子の顔になった。幸せそうな息を漏らしている。
「つむ、もうお姫様よ! 」
「かわいいよ、紬ちゃん」
「あおいくん、写真とって! 」
「いいよ」
グミの指輪を見せて婚約ポーズを取っている紬ちゃん。僕は渡されていたタブレットで、シャッターを切った。
「見せて! 」
撮られることに満足した様子の紬ちゃんに、タブレットを返す。自分の手元にも置かれている、未開封のグミの指輪を見つめた。これはサイダー味らしく、透き通ったグミ宝石に、グレーのプラリングだ。ダイヤってことかな? 食べてみようかな。
「食べるか? 」
自分のタブレットを見ていた様子の優征くんが聞く。
「うん。もらおうかな」
頷くなり、手元の指輪グミをさらわれた。封を切られて、リングをこちらに向けられる。
「手、出してみて」
なんだろう、と思いながらペンを持っていなかった左手を差し出した。すると優征くんは、薬指にグミの指輪をゆっくりとはめてきた。
「はい」
サンセットみたいな優しい笑みを浮かべた優征くん。僕の左手の薬指には、ブカブカのダイヤのグミ宝石が輝いていた。
「あ、ありがとう……」
お菓子の指輪だとわかっているのに、王子様から求婚されたみたいで、ドキドキした。紬ちゃんの気持ちも分かる。なんだか少し照れてしまう。こういうことって気軽にしていいんだっけ? いや、でも友達だし。ノリ? みたいな。それにお菓子、あくまでグミで、本物のダイヤじゃない。いやでも……。そもそもはめるつもりはなかったんだけど。
「あ、じゃあ僕もやる」
考えれば考えるほど、いたたまれなくなって、そう言った。友達のノリならノらなければ。
「やってくれるのか? はい」
優征くんは動揺を見せずに、左手を差し出してきた。
「あ、うん」
なんで付ける僕の方が動揺するんだろう? と思いながら、同じくダイヤを模した指輪のパッケージを開けた。はめる前に、一呼吸必要だった。お菓子、お菓子、と脳内で唱える。続けて息を飲むような気持ちで、お菓子の指輪を優征くんの左手の薬指にはめた。
「ありがとう」
優征くんはその薬指をじっくりと見つめていた。それから僕の指輪と交互に視線を動かして、ピッタリと手の甲を横付してくる。
「おそろいだな」
「そう、だね。グミだけど」
「グミでも、な」
優征くんはスマホで写真を撮った。激しく動揺してしまう。
「と、撮るの? グミだよ? 」
「葵、紬みたいに指輪見せびらかすポーズとって」
「……こう? 」
ついやってしまった。友達のノリ……だよね?
「そう。いいね」
パシャパシャと、シャッター切られる。予想外の展開に目がひらく。
「え、と、撮るの? 」
「うん。似合っているから」
平然と言われるから、動揺する僕の方がおかしいのかな。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
優征くんも似合っているよ、と言った方がよかったかな、と考えているとちょん、とスラックスを引かれた。紬ちゃんだ。
「お写真、やっぱり白いドレスを着て撮ればよかったわ」
「もう一回撮る? 着替えてきたら」
おそろいの指輪から視線を外すことができて、内心ほっとした。
「持ってないの。次のお誕生日に買ってもらうわ。どんなのにするか描いて! 」
「うん! お絵描きね! 」
そうだった、そうだった。慌ててペンを立てて、お絵描きアプリを開いた。
「どんなのがいいの? 」
「王子様のお姫様が着てそうなやつ! 」
「だからどんなだそれは」
優征くんがツッコむ。
「お姫様はお姫様よ! 」
僕は無邪気なイメージの爆発に少し頭を悩ませる。紬ちゃんの好きそうなウェディングドレスってどんなだろう。紬ちゃんの指輪はピンクだった。
「苺のショートケーキのクリームみたいなフリルのドレス? ふわふわの」
「あら! すてき! 」
ホールケーキのクリームをイメージしながら、ドレスをデザインする。ウェディングケーキをイメージして、三段重ねのロング丈にした。
「でね、虹色のお馬さんに乗ってるの! 」
「プリンセスがか? 」
ペンを止めた僕の代わりに、優征くんが聞いた。
「うん! つむはお馬さんにも乗ってみたいから! 虹色だと可愛いわよね」
「ユニコーンってこと? 」
僕は聞いた。
「ユニコーン? 」
首をかしげた紬ちゃんに、優征くんはスマホを見せた。検索して画像を見せたのだろう。
「まあ可愛いお馬さん! 会いたいわ! 」
パチン、と小さな手を叩いて喜んだ紬ちゃん。
「馬じゃないし、伝説の生き物だからいない。作り物だから」
「にぃにのいじわる! 」
「なんでだよ。事実だからな、ただの」
無慈悲にも現実を突きつけた優征くんに、紬ちゃんは怒った。ぷくーっと膨れてしまう。僕はかわいい兄妹に、心の中だけで微笑んだ。
「まあじゃあさ、紬姫(つむぎひめ)の結婚を祝うために、魔法使いに出してもらったユニコーンたち、でどう? 魔法で作ったから乗れるよ。で、ショートケーキのドレスを着て、ユニコーンに乗って、お菓子の家みたいな式場で、カッコイイ王子様と結婚をする。白いドレスを着た紬姫は、王子様から苺の宝石の指輪をもらって、まるいショートケーキの完成。永遠に仲良く暮らしましたって言うのは? 」
「すごくすてき! 描いて! 」
さっきまでの不機嫌を吹き飛ばして、紬ちゃんは前のめりになって僕を見ていた。よかった、機嫌が直って。
「ちょっと待ってね」
30分ほどでザッと描き終えた。お菓子の家の式場で、ユニコーンに乗った紬姫と王子様がいる。王子様が紬姫に苺の宝石の指輪を差し出しているシーンを描いた。完成した絵を見ると、なんだかグミの指輪に影響されているような……。
「すごい! ありがとう!! これ見せて、ママにねだるわ! 」
紬ちゃんはキラキラと絵を見てくれている。
「うん。買ってもらえるといいね」
結婚式で指輪交換は普通、と自分に言い聞かせる。
優征くんが絵を覗き込んでいたから、なんとなく、気恥ずかしくなった。
「葵はやっぱり絵が上手いな。紬の支離滅裂な要望にストーリーまで付けてくれてありがとう」
「それほどでも……」
かしこまった言葉遣いになった。
「……俺の方がずっと、絵が上手いって知ってたのに。前野に先に褒められた」
ひとり言のように呟かれた。
指輪は1時間後に3人一緒に、いっせーの、で食べた。
飛田家の玄関に入るなり、園服姿の紬ちゃんは、靴を脱いで走り出そうとした。
「お仕事が終わったから、プリンセスに戻るのよ」
保育園のことをお仕事と呼んでいるらしい。
「プリンセス。靴をそろえるのを忘れているぞ」
優征くんは声で引き止めた。
「あら、つむったらいけない。ありがとう、王子様」
紬ちゃんは戻ってきて、靴を丁寧に揃えた。園服の裾をヒラリとつまんで、挨拶をする。
「どういたしまして」
やってあげる訳ではないんだな、と意外に思った。日ごろ、細々と世話を焼いてくれるから、紬ちゃんにはさらに全開だと思っていた。
「葵。玄関の段差、躓くなよ」
もう何度もお邪魔しているから知っているのに、優征くんは言う。足の怪我が治ったことは、優征くんも知っているはずなのに。けれどもまだまだ、怪我する奴、な印象が抜けないのだろう。初対面の印象は強く残るとも言うし。
「うん。ありがとう」
玄関を上がると、優征くんはリビングに続くドアを抑えて、先に通してくれる。
最近は優征くんの世話焼きを、居心地がいいと感じるようになった。
階段の上から紬ちゃんの声がした。
「王子様! プリンセスのファスナーを上げて欲しいの! 」
「はいはい」
慣れたように返事をした優征くんは、階段を上がって行ってしまった。リビングのダイニングセットに座らせてもらい、僕はぼーっとしていた。
しばらくしてタタタッとドアから駆け寄ってきたのは、ドレスアップした紬ちゃんだった。姫ピンク色で、頭にはティアラを載せている。優征くんも戻ってきた。
「あおいくん! 」
きゅ、と指を握られる。紬ちゃんは僕にすっかり慣れてくれた。
「どうしたの? 」
紬ちゃんの背丈に合わせて聞く。
「つむがね、考えたカワイイドレスを描いてほしいの! あおいくんはお絵描きが上手だって、にぃにが言ってた」
ビシッと優征くんを指さす。思わず見つめた。そんなふうに思ってくれていたなんて。
「上手いだろう? 」
優征くんはゆっくりと頷いた。
「ありがとう。絵を描くのは好きなんだよ」
褒めてもらえたし、前野くんには言えなかったことを言えた。
「いいよ。なにで描こうか」
ニコニコして、紬ちゃんに返事をする。
「これ! つむのなの! 」
渡されたのは、タブレット端末と専用のスタイラスペンだった。デジタルで絵を描くのは、僕もたまにやる。
「デジタルね」
紬ちゃんと並んで、リビングのテーブルに座らせてもらう。さっそく、優征くんがオレンジジュースとお菓子を出してくれた。紬ちゃんにはプリンセスのキャラクターがたくさん描かれたピンク色のプラコップ。僕と優征くんは、初夏の空みたいなブルーのグラスだった。底は透明で、縁にかけて青のグラデーションになっている。オレンジジュースが注がれている様はまるで。
「サンセットみたいでキレイだね」
ウットリとして言う。
優征くんは飲んでいたグラスを離して、見つめた。
「たしかにな。よくそんなこと思いつくな」
感心したように頷かれた。
「オレンジジュースに合わせて選んでくれたんじゃないの? 」
「たまたまだよ」
いい子にオレンジジュースを飲んでいた紬ちゃんが、目の前の個包装のなにかに手を伸ばした。フィルムに包まれていて、お菓子? だと思うけれど。
「これなに? 」
ランランと輝いた紬ちゃんの瞳は興味津々だ。
「グミでできた指輪だってさ。本当にはめられるって」
優征くんは答えた。
「王子様! はめて! 」
紬ちゃんは大興奮だ。
「はいはい」
優征くんは紬ちゃんの前にあったパッケージを破ると、指輪のグミを取り出した。宝石の部分はキラキラしたピンク色のグミになっていて、リングの部分はプラスチックでできているみたいだ。よくあるおもちゃの指輪のように、サイズが大きめだ。
スっと優征くんが指輪をはめると、紬ちゃんは、プロポーズされた女の子の顔になった。幸せそうな息を漏らしている。
「つむ、もうお姫様よ! 」
「かわいいよ、紬ちゃん」
「あおいくん、写真とって! 」
「いいよ」
グミの指輪を見せて婚約ポーズを取っている紬ちゃん。僕は渡されていたタブレットで、シャッターを切った。
「見せて! 」
撮られることに満足した様子の紬ちゃんに、タブレットを返す。自分の手元にも置かれている、未開封のグミの指輪を見つめた。これはサイダー味らしく、透き通ったグミ宝石に、グレーのプラリングだ。ダイヤってことかな? 食べてみようかな。
「食べるか? 」
自分のタブレットを見ていた様子の優征くんが聞く。
「うん。もらおうかな」
頷くなり、手元の指輪グミをさらわれた。封を切られて、リングをこちらに向けられる。
「手、出してみて」
なんだろう、と思いながらペンを持っていなかった左手を差し出した。すると優征くんは、薬指にグミの指輪をゆっくりとはめてきた。
「はい」
サンセットみたいな優しい笑みを浮かべた優征くん。僕の左手の薬指には、ブカブカのダイヤのグミ宝石が輝いていた。
「あ、ありがとう……」
お菓子の指輪だとわかっているのに、王子様から求婚されたみたいで、ドキドキした。紬ちゃんの気持ちも分かる。なんだか少し照れてしまう。こういうことって気軽にしていいんだっけ? いや、でも友達だし。ノリ? みたいな。それにお菓子、あくまでグミで、本物のダイヤじゃない。いやでも……。そもそもはめるつもりはなかったんだけど。
「あ、じゃあ僕もやる」
考えれば考えるほど、いたたまれなくなって、そう言った。友達のノリならノらなければ。
「やってくれるのか? はい」
優征くんは動揺を見せずに、左手を差し出してきた。
「あ、うん」
なんで付ける僕の方が動揺するんだろう? と思いながら、同じくダイヤを模した指輪のパッケージを開けた。はめる前に、一呼吸必要だった。お菓子、お菓子、と脳内で唱える。続けて息を飲むような気持ちで、お菓子の指輪を優征くんの左手の薬指にはめた。
「ありがとう」
優征くんはその薬指をじっくりと見つめていた。それから僕の指輪と交互に視線を動かして、ピッタリと手の甲を横付してくる。
「おそろいだな」
「そう、だね。グミだけど」
「グミでも、な」
優征くんはスマホで写真を撮った。激しく動揺してしまう。
「と、撮るの? グミだよ? 」
「葵、紬みたいに指輪見せびらかすポーズとって」
「……こう? 」
ついやってしまった。友達のノリ……だよね?
「そう。いいね」
パシャパシャと、シャッター切られる。予想外の展開に目がひらく。
「え、と、撮るの? 」
「うん。似合っているから」
平然と言われるから、動揺する僕の方がおかしいのかな。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
優征くんも似合っているよ、と言った方がよかったかな、と考えているとちょん、とスラックスを引かれた。紬ちゃんだ。
「お写真、やっぱり白いドレスを着て撮ればよかったわ」
「もう一回撮る? 着替えてきたら」
おそろいの指輪から視線を外すことができて、内心ほっとした。
「持ってないの。次のお誕生日に買ってもらうわ。どんなのにするか描いて! 」
「うん! お絵描きね! 」
そうだった、そうだった。慌ててペンを立てて、お絵描きアプリを開いた。
「どんなのがいいの? 」
「王子様のお姫様が着てそうなやつ! 」
「だからどんなだそれは」
優征くんがツッコむ。
「お姫様はお姫様よ! 」
僕は無邪気なイメージの爆発に少し頭を悩ませる。紬ちゃんの好きそうなウェディングドレスってどんなだろう。紬ちゃんの指輪はピンクだった。
「苺のショートケーキのクリームみたいなフリルのドレス? ふわふわの」
「あら! すてき! 」
ホールケーキのクリームをイメージしながら、ドレスをデザインする。ウェディングケーキをイメージして、三段重ねのロング丈にした。
「でね、虹色のお馬さんに乗ってるの! 」
「プリンセスがか? 」
ペンを止めた僕の代わりに、優征くんが聞いた。
「うん! つむはお馬さんにも乗ってみたいから! 虹色だと可愛いわよね」
「ユニコーンってこと? 」
僕は聞いた。
「ユニコーン? 」
首をかしげた紬ちゃんに、優征くんはスマホを見せた。検索して画像を見せたのだろう。
「まあ可愛いお馬さん! 会いたいわ! 」
パチン、と小さな手を叩いて喜んだ紬ちゃん。
「馬じゃないし、伝説の生き物だからいない。作り物だから」
「にぃにのいじわる! 」
「なんでだよ。事実だからな、ただの」
無慈悲にも現実を突きつけた優征くんに、紬ちゃんは怒った。ぷくーっと膨れてしまう。僕はかわいい兄妹に、心の中だけで微笑んだ。
「まあじゃあさ、紬姫(つむぎひめ)の結婚を祝うために、魔法使いに出してもらったユニコーンたち、でどう? 魔法で作ったから乗れるよ。で、ショートケーキのドレスを着て、ユニコーンに乗って、お菓子の家みたいな式場で、カッコイイ王子様と結婚をする。白いドレスを着た紬姫は、王子様から苺の宝石の指輪をもらって、まるいショートケーキの完成。永遠に仲良く暮らしましたって言うのは? 」
「すごくすてき! 描いて! 」
さっきまでの不機嫌を吹き飛ばして、紬ちゃんは前のめりになって僕を見ていた。よかった、機嫌が直って。
「ちょっと待ってね」
30分ほどでザッと描き終えた。お菓子の家の式場で、ユニコーンに乗った紬姫と王子様がいる。王子様が紬姫に苺の宝石の指輪を差し出しているシーンを描いた。完成した絵を見ると、なんだかグミの指輪に影響されているような……。
「すごい! ありがとう!! これ見せて、ママにねだるわ! 」
紬ちゃんはキラキラと絵を見てくれている。
「うん。買ってもらえるといいね」
結婚式で指輪交換は普通、と自分に言い聞かせる。
優征くんが絵を覗き込んでいたから、なんとなく、気恥ずかしくなった。
「葵はやっぱり絵が上手いな。紬の支離滅裂な要望にストーリーまで付けてくれてありがとう」
「それほどでも……」
かしこまった言葉遣いになった。
「……俺の方がずっと、絵が上手いって知ってたのに。前野に先に褒められた」
ひとり言のように呟かれた。
指輪は1時間後に3人一緒に、いっせーの、で食べた。
