探偵研究部。――カケラノセカイーー ② 部室争奪戦!

夕暮れ、放課後の賑わいが残る学園を抜け、探偵部の三人は珍しく寄り道をして、学園の近くにある二郎系ラーメンのお店にやってきた。
 もちろん未知のSPさんも付いてきている。

 店内に入ると、すでにこってりとしたスープの匂いと、
「っしゃーせー!」「っしゃーせー」
 の掛け声が響いた。

 平屋がぐちぐち言う。
「先輩が運動会でラーメンの話なんてするから、あの日以来、口がラーメンなんですよ!」

「運動会関係ないんじゃあないか? それー」
 小川はリュックから財布を探す。

「初めて外でラーメン食べます……」
 スクールバックからキャラクターのかわいい財布を取り出す未知。

 その言葉に「え!!!」と盛大に驚く小川。
 すかさず「カードは使えないからね!」と平屋。

「わかってますよ」
 と未知は笑った。

 少し並んだら、すぐに案内された。
 小川は慣れたもので、店の奥にある券売機に迷いなく向かう。カチッ、と慣れた手つきで千円札を入れ、お目当ての麺をポチッと押す。そのまま迷うことなく『チャーシュー大盛り』と書かれたボタンを押し、満足そうに食券を取り出しお釣りを受け取る。

 その一連を見ていたものの、世間知らずの令嬢である未知は、券売機の前で立ちすくんでいた。

(これは、どういうシステム?)

 目の前には無数のボタンと、訳のわからない単語が並んでいる。彼女にとっては、先日の百人一首よりも難解に思えた。
 すかさず平屋が、得意げな顔で未知の横に立つ。

「ああ、未知、それはな、まずこれでお金を入れて……」

 ついこの間まで、この券売機のシステムを全く知らず、小川に教えてもらっていたことは、おくびにも出さない。

「これでもやしを増量、こっちで麺を増量するんだ。簡単だろ?」
 そう言って、平屋は迷いなくスタンダードな食券を購入した。

 未知は、ドキドキしながら席に着く。運動会のスタートダッシュでもこんなに緊張しなかった。
 店員に食券を渡す。

「にんにく、あぶら、やさい、でゅしまか――?(どうしますか)」

 呪文のような店員の問いかけに、

 小川は難なく、
「あ、ニンニク入れてください! あと、ヤサイとアブラをマシマシで!」

 平屋も慣れた風に、
「僕はニンニク抜きで。ヤサイ、アブラ、カラメ(味濃いめ)をお願いします」

 未知はきょろきょろ二人を見てから、教えられたとおり、
「え、ええと。麺は少なめで……ニンニクは無し。それで……ヤサイを、マシマシでくだせー」

(((くだせー???)))

 あっちこっちで疑問符が飛び交った。店の外のSPが思いっきり肩を揺らした。

   ******

 数分後。三人の丼は運ばれてきた。

 小川の丼は、もはや丼ではない。分厚く切られたチャーシューが、惜しみなく何枚も積み上げられ、麺が見えないほどの量だった。

 未知の丼は、巨大な山だった。平屋が『もやし増量』を教えてくれたことで、彼女は好奇心にかられ、大量のもやしを注文していた。彼女が初めて見る、もやしだけの要塞だった。

 そして平屋の丼は、一番スタンダードな、ガイドブックどおりの美しい姿をしていた。

「いただきます!」

 三人は声をそろえて、食べ始める。

 小川は、チャーシューを豪快に頬張り、「うまい!」と満足そうな声を上げる。
 未知は、もやしをシャキシャキと音を立てて食べ進め、「おいしい!」と、見た目の想像を超えた味に感動していた。
 平屋は、バランスの取れた一杯を堪能し、時折二人の丼を横目で見ては、涼し気にニヤリと笑う。

 やがて完食し、満腹になった三人は、満足げに椅子にもたれかかった。

「美味しかった……。もやしがこれほど美味しいとは……」
 未知は感動したように呟く。

「わたし、もやしと結婚する」

 その言葉に、小川は目を丸くして、口に含んだ水を噴き出しそうになる。

「え? じゃあ、俺、チャーシューと結婚すんの?」

「なんでそーなるんですか」
 平屋が呆れたようにツッコミを入れる。

 三人の会話は、いつもの部室での応酬だ。
 しかし、その時運悪く、隣の席に座っていた本校生徒が、その会話を耳にしてしまった。


 ――後日、その生徒の口から広まった噂は、学校中を駆け巡ることになる。

「ねえ、聞いた? 探偵研究部の小川先輩と、有栖川さんが結婚するんだって!」
「しかも、小川先輩はチャーシューと、有栖川さんはもやしと三角関係らしいよ!」
「え? 誰と誰が結婚するって!?」

 運動会でのインパクトある活躍のおかげか、話は大きく尾ひれがつき、事態は思わぬ方向に進展していった。

 そして、生徒会副会長である今日子が、その噂を耳にして血を吐いて倒れたのは言うまでもない。
 倒れる前に、今日子の放った言葉。

「あ……愛とは……決して後悔しないこと……」

 ガクッ! (チーン)

【幕間・ラーメン屋さんにいこう! ・了】