探偵研究部。――カケラノセカイーー ② 部室争奪戦!

 放課後、未知はまだほっぺたを手の甲でぬぐっている。高杉に触られたのがよっぽど嫌だったらしい。

「アレが世の中で言う、イケメンって奴ですか!? 馴れ馴れしくて気持ち悪いです!」

 未知は目を見開いて頬をふくらましてはっきり言った。
 平屋はそんな未知を焚き付けるように言う。

「いや、未知。あれはイケメンじゃない。なんちゃってイケメンって言うヤツで、つまり、似て非なるものだ」

「似て非なるもの……」

 未知が小首をかしげるので、平屋はタブレットで「海の生物」を開く。

「ヒラメとカレイがいるだろ。本物のイケメンはヒラメ。アイツはカレイだ。市場価値に雲泥の差がある。アイツはペラペラと自分をアピールするけれど、それは二流のなんちゃってのすること。本物のイケメンって言うのは、黙ってても、人を惹きつけるもんだ。例えば……」

 そこまで言って、ちらりと平屋は小川を見るが、小川の方は何故かダンベル体操をしていた。

 ――まあ、筋肉自慢の小川先輩も、ちょっと違うかな。と平屋は苦笑いする。

 すると、バタバタバタバタ! と廊下からこちらに向かってくる騒がしい足音がした。
 ガラッと扉を開けて、探偵研究部の部室に、一人の女子生徒が高めのツインテールをゆらしながら駆け込んできた。

「ずるいぞ、未知! ハーレムは許さん!」

 そう叫びながら入ってきたのは、未知のクラスメイトの智子だった。
 そして、彼女の後ろには、朝のロン毛のチャラそうな上級生、高杉の姿もある。

「おいおい、智子くん。そんな大声出すなよ」

 高杉は、またしても謎のポーズをつけたまんま呆れたような表情で智子をなだめるが、智子は未知に詰め寄っていく。

「ちょっと待って! 探偵部に入ったなんて聞いてないんですけど! 小川・平屋コンビの部活とか、推し活のガチ宝庫じゃん! あんな顔面偏差値高めの二人に、ウチら一年は箱推しでメンタル削られてんのにさぁ。観賞用にって、あえて入部してないってのに!! そこへ秒で入り込むとか、マジでありえないんだけど! なんで未知だけ、ちゃっかり神ポジにいるわけ!?」

 智子は未知に向かって、不満そうに口を尖らせる。

「ガチ? 何を削るって? 箱……神? 一体何のこと?」

 未知は、マシンガンギャルトークが知らない外語のようで、理解が追いつかずきょとんとしていた。
 小川が高杉に近寄る。

「お前、今朝からなんなんだよ。やけにからんでくるよな」

「そうですよ。一年生まで引き連れて、一体何の用ですか!」

 平屋がジト目でにらむと、高杉は、

「よくぞ聞いてくれた!」

 と笑い胸を張る。

「俺は知っての通り、オカルト研究会の会長だ。探偵研究部と同じく、万年部員不足の弱小同好会さ。今年も俺一人の会員か……と落ち込んでいる俺に、天使は微笑んだ。なんと、一年生が入会希望って来てくれたんだ! それが、この智子ちゃん。しかもそこの未知ちゃんとクラスメイト! 運命じゃない? 運命じゃん。だったら二人で入った方がいいんじゃない?」

 高杉は、大げさにポーズを取りながら言った。

「未知! 私、オカルト研究会に入る!」

 智子は、そう叫び、未知の手を掴む。

「ねえ、だからさ、一緒に入ろうよ――」

 未知は同性のクラスメイトを無下にすることもできず、

「ええ……?」

 とおろおろとする。
 平屋は苦々しく、

「そうきたか。部活動規定の『本人の意思を無視した勧誘は厳に慎むべし』こいつを逆手にとったな」

 とつぶやいた。

「おい。確か、お前のところの『オカルト研究会』って、あんまりにも弱小で、部室がないんじゃなかったか? 一年生抱えて、そんなんでまともな活動できるのかよ?」

 心配そうに小川が逆に尋ねた。
 小川のお節介は計算通りの高杉は、ニヤリと笑い、探偵研究部の部室をぐるりと三六〇度見渡した。

「そう! 我々の欠点はそこなんだよ! 我々の部活には、部室がない!」

(他にも欠点ありそうだけどな)

 というツッコミを脇に置いて、小川と平屋は、嫌な予感しかしない。

「ないから、ここを譲れ!」

 高杉の断言に、

「「「は、はあ――!!!?」」」

 と、小川、未知、平屋は盛大に声を上げた。
 小川は怒りを爆発させる。

「おいこら高杉、調子に乗るなよ。何だってこの部室は、歴史ある俺たち探偵研究部の聖域だぞ!」

「そんなの誰が決めたよ! ここの学校の生徒活動の為の部室だ!! だったら俺たちにも、権利がある!!」

「なんだと!」

 小川の沸点超えを心配して、平屋がおろおろしだした。
 未知も、冷静さを欠いた小川がろくな判断をしないのをすでに知っている。
 それを知っているかのように、高杉は煽った。

「部室が欲しいなら、俺と勝負しろ!」

 高杉はそう言って、小川に挑戦的な眼差しを向けた。

「よーし、いいだろう」

 小川が腕まくりをしたので、平屋と未知は天を仰いだ。
 分かりやすい挑発に乗ってしまったのだ。