ここに来て1年が経った
ここでの生活にもだいぶ慣れた
ある日、俺は洗濯物を干していた
ここでは基本的に家事は自分たちでする。メイドさんはいるがやってもらえるのは最低限のことのみで自らすすんで身の回りのことを済ませていく。そうしているうちに小さい頃から試行錯誤するようになる。そして、やがて才能が開花する
何の才能かって?それはこういうこと
目の前では黒髪の子が大きめの桶に入った水のなかで自分が着ていたシャツや下着をグルグルと回転させながら洗っている
手を使わずに…そう、魔法とやらで効率的に洗濯をしているのである
その子は両手をかざしてなんとか魔法を制御しているが、慣れてくると念じるだけで使えるようになるらしい。これが才能である。
俺はというと…桶のなかで汚れを手でゴシゴシと落としていた……。地道な作業である。
残念ながら、俺には魔法の才はないようで、せっかく異世界転生したのに魔法が使えないんかい!っと最初の頃は投げやりになっていたが生活とは慣れの積み重ねである。ルーティン化してしまえば大したことではない
それよりここでの一番の楽しみといえば食事である。料理は専門の人がやってくれる。さすがに小さな子に包丁やらフライパンやらを持たせるのは危ないので、という最低限の配慮である。しかし、実際はお貴族様たちに下手なものは食べさせられないという別の意味での配慮があるみたいだ。まぁ、それにあやかることができているので良しとしよう。
さてと、
パンっパンっ
と洗って絞った洗濯物をひろげる
それらを物干し場所へ持っていこうとしたそのとき、
おっとっとっとっとっ!!
バランスを崩した、倒れるーっ!!
モフッ
「え?」
モフ、モフ、
「は?」
転んで身体を地面に打ち付けるかと思いきやなにかにぶつかった。いや、倒れ込んだが正解か。
モフッ、モフッ
なんだかモフモフする……
大きさは長径1.2mくらいの楕円形
灰色の柔らかく密度の高い毛で覆われた謎の物体
触り心地は……いい
なにこれ気持ちいい
モフモフモフモフ
「おい、なにを我の許可なくモフモフしておるのだ」
「え? しゃ、しゃべった?!」
モフモフがモフモフのなかからしゃべりかけてきた
すると、ずずずずっ上半身?をひねってこちらをにらみつける灰色モフモフ
「わっすみません!」
と言ってすぐさまそこから飛び退くと
ぴょんっぴょんっぴょんっ
と回転してこちらを振り向く
「ふむ、分かればよい。それよりおぬし、怪我はないか」
え、モフモフが気遣ってくれてる
なにゆえ?俺は頭は打ち付けていないが、その中に入っている脳みそが小さいゆえに思考が追い付かなかったのでとりあえず聞いてみた
「あの、庇ってくれて? ありがとうございます。ところで、あなたは?」
「よい。礼には及ばん。我はチンチラぞよ
人間は我らを魔物と呼ぶ」
え?チンチラって魔物だったの??
どおりで俺がもといた世界で人間をその魅惑のモフモフボディーで虜にし、従属のごとくこき使っていたわけだ
俺も友人の家にいた一匹のチンチラのためにどれだけの種類のエサとおもちゃを持ち寄ったことか今思うと魔力に取りつかれてたに違いない。
なるほど~と俺が納得していると
しゅるるるるぅぅぅぅ
と、チンチラさんが縮んでいった
「わ、縮んだ」
「うむ、時間切れよ。我の巨大化は10分が限界ぞよ。それにそなたを助けるために全力ダッシュをしたことにより力の消耗を早めてしまった」
「それは、すみません。俺のために、ありがとうございます
ところで、チンチラさん。チンチラさんはなぜここに?」
「我は一年前からここにおるぞよ。おぬしら人間の子供を観察しておった。魔力の容量を決める器に魔力の増減、それに魔力の操作スキル。しかし、おぬしというものはやけに淡々と日々を過ごしておるな。他の者たちは自分にどんな能力があってどんな使い方ができるのか日々試しておるというのに。おぬしときたら…」
と言ってチンチラさんはそのちっちゃなおててで額を押さえていらっしゃった
それってそんなにダメなことなのかな?
「えと……それってそんなにいけないことですか?」
俺はその疑問をそのままぶつけてみた
「いや、それもまた人間のひとつの生き方。我にとやかく言う権利はない。しかし……そなたの場合、心のどこかでは自分にも何か特別な才があればよいのに、という欲を持っておる。我にはそう感じたのだ」
……見抜かれている
俺はもといた世界でもそうだった
仕事をし、暮らしていけるだけの収入を得て、趣味はないけれど休日はゆっくり過ごすことができる。体力回復したらまた仕事に行く平凡で淡々と過ぎていく幸せな日常のなかで何かが足りないと感じていた。そして、ある日気付いてしまったのだ。俺には飛び抜けた才能はおろか小さな才能ですらないのだとずっと信じて細々とだがやってきた自分にも何かの才能がありいつかはその才を使って誰かに褒めてもらえると信じていた。信じてやっていたのにとうとう見つからなかった。自暴自棄ぎみになり仕事もやめようかな……なんて思っていたある日、俺はこの世界へとやってきたのだ。でも、せっかく転生したというのにやっぱり俺には特別な能力は何も備わっていなかった……
「おぬし、何を考えておる」
「あ、すみません。ちょっと自分の内側と対話しておりました」
「ふむ、おぬしは自分と向き合う能力は優れておるようじゃが、自分の能力を見極める能力には恵まれておらぬようじゃのぉ」
「自分の能力を見極める能力……」
「そうじゃ、それを鍛えねばいつまでたっても自分の才など見つからんじゃろ」
「はぁ……」
俺は納得がいかなかった、でも腑には落ちた
「おぬしの能力は高い。それを才にするか再び凡にするかはおぬし次第じゃぞ」
「……! 俺の能力ってなんですか?!」
「ふむ、毎朝時間どおりに起きて着替えて洗濯をしてトイレ掃除をする……」
「……それって誰でもできませんか?」
「そうでもないぞよ、できない者もたくさんおる。それに……」
「それに……?」
「おぬしにはその耳があるではないか」
「耳……?」
「そう。おぬし、その耳を持ってしてなぜ駆使せぬのだ。我には理解不能よ」
「耳ってなんですか?」
「ふむ、おぬしステータスページは開いたことあるかの?」
「ステータスページ?なんですかそれは」
「ステータスページとは自身の能力名、能力レベル、体力数値や獲得アイテムがまとめて載っているページである。ちょいと手でハートを作ってみるがよい」
「こうですか?」
俺は手で現代版ハートではなく往年のオーソドックスなハートを作ってみた
「それをふたつに割って、そのまま両手を頭の両側に付ける。そして、“オープン・ステータス”と言ってみるがよい」
俺は言われるがままにハートの半分を頭の右側に、そしてもう半分を左側に持ってきた
「オープン・ステータス」
ブォンッと音を立ててステータスページが現れた!
「うわっ本当に出た、えと……俺のスキルは?」
“スキル言語士
スキルレベル MAX”
と書かれていた
「言語士……とは?」
「じゃ、そういうことで」
チンチラが去ろうとする
「ああ!待って待って!!」
「なんだ、まだなにかあるのか」
「いや、これをどう使えと」
「それぐらい自分で考えろ」
急に冷たい……
「それを有意義に使うかドブに捨てるかはおぬし次第であるぞ」
可愛い見た目してすごいこと言うな
ふぅ…と小さいため息を吐いてチンチラが続けた
「おぬし……すでに使っておるのに気付いておらぬようじゃな……ちなみにハートを閉じたらページも閉じるぞ」
と言ってチンチラさんはそのままぴょんっぴょんっぴょんっとどこかへ……どこかへ……まだいる……振り返ってこっち見てる、追っかけて欲しいのかな?あ、行った……
それはそうと、え、俺すでに使ってるの?どこで?
「うーん」
「何を悩んでいるんだ」
「わっ」
俺がうんうん唸っていると、ベニートが背後からやってきた
「ミチル、洗濯物干しにいかないのか
早く干して昼メシ食べに行こうぜ」
「あ、行く行く」
俺はベニートと一緒に洗濯物を干していき
ふーっと一息ついたところで聞いてみた
「ベニート、ベニートのスキルってなぁに?」
「俺のスキルか?俺は剣士だ」
剣士……かっこいい
それに比べて俺ときたらなんなんだ?この言語士というスキルは
使い勝手が分からん!
仕方ないので俺は今日のランチ、リモーネ国の海鮮料理を頂くことにしたのだった
ここでの生活にもだいぶ慣れた
ある日、俺は洗濯物を干していた
ここでは基本的に家事は自分たちでする。メイドさんはいるがやってもらえるのは最低限のことのみで自らすすんで身の回りのことを済ませていく。そうしているうちに小さい頃から試行錯誤するようになる。そして、やがて才能が開花する
何の才能かって?それはこういうこと
目の前では黒髪の子が大きめの桶に入った水のなかで自分が着ていたシャツや下着をグルグルと回転させながら洗っている
手を使わずに…そう、魔法とやらで効率的に洗濯をしているのである
その子は両手をかざしてなんとか魔法を制御しているが、慣れてくると念じるだけで使えるようになるらしい。これが才能である。
俺はというと…桶のなかで汚れを手でゴシゴシと落としていた……。地道な作業である。
残念ながら、俺には魔法の才はないようで、せっかく異世界転生したのに魔法が使えないんかい!っと最初の頃は投げやりになっていたが生活とは慣れの積み重ねである。ルーティン化してしまえば大したことではない
それよりここでの一番の楽しみといえば食事である。料理は専門の人がやってくれる。さすがに小さな子に包丁やらフライパンやらを持たせるのは危ないので、という最低限の配慮である。しかし、実際はお貴族様たちに下手なものは食べさせられないという別の意味での配慮があるみたいだ。まぁ、それにあやかることができているので良しとしよう。
さてと、
パンっパンっ
と洗って絞った洗濯物をひろげる
それらを物干し場所へ持っていこうとしたそのとき、
おっとっとっとっとっ!!
バランスを崩した、倒れるーっ!!
モフッ
「え?」
モフ、モフ、
「は?」
転んで身体を地面に打ち付けるかと思いきやなにかにぶつかった。いや、倒れ込んだが正解か。
モフッ、モフッ
なんだかモフモフする……
大きさは長径1.2mくらいの楕円形
灰色の柔らかく密度の高い毛で覆われた謎の物体
触り心地は……いい
なにこれ気持ちいい
モフモフモフモフ
「おい、なにを我の許可なくモフモフしておるのだ」
「え? しゃ、しゃべった?!」
モフモフがモフモフのなかからしゃべりかけてきた
すると、ずずずずっ上半身?をひねってこちらをにらみつける灰色モフモフ
「わっすみません!」
と言ってすぐさまそこから飛び退くと
ぴょんっぴょんっぴょんっ
と回転してこちらを振り向く
「ふむ、分かればよい。それよりおぬし、怪我はないか」
え、モフモフが気遣ってくれてる
なにゆえ?俺は頭は打ち付けていないが、その中に入っている脳みそが小さいゆえに思考が追い付かなかったのでとりあえず聞いてみた
「あの、庇ってくれて? ありがとうございます。ところで、あなたは?」
「よい。礼には及ばん。我はチンチラぞよ
人間は我らを魔物と呼ぶ」
え?チンチラって魔物だったの??
どおりで俺がもといた世界で人間をその魅惑のモフモフボディーで虜にし、従属のごとくこき使っていたわけだ
俺も友人の家にいた一匹のチンチラのためにどれだけの種類のエサとおもちゃを持ち寄ったことか今思うと魔力に取りつかれてたに違いない。
なるほど~と俺が納得していると
しゅるるるるぅぅぅぅ
と、チンチラさんが縮んでいった
「わ、縮んだ」
「うむ、時間切れよ。我の巨大化は10分が限界ぞよ。それにそなたを助けるために全力ダッシュをしたことにより力の消耗を早めてしまった」
「それは、すみません。俺のために、ありがとうございます
ところで、チンチラさん。チンチラさんはなぜここに?」
「我は一年前からここにおるぞよ。おぬしら人間の子供を観察しておった。魔力の容量を決める器に魔力の増減、それに魔力の操作スキル。しかし、おぬしというものはやけに淡々と日々を過ごしておるな。他の者たちは自分にどんな能力があってどんな使い方ができるのか日々試しておるというのに。おぬしときたら…」
と言ってチンチラさんはそのちっちゃなおててで額を押さえていらっしゃった
それってそんなにダメなことなのかな?
「えと……それってそんなにいけないことですか?」
俺はその疑問をそのままぶつけてみた
「いや、それもまた人間のひとつの生き方。我にとやかく言う権利はない。しかし……そなたの場合、心のどこかでは自分にも何か特別な才があればよいのに、という欲を持っておる。我にはそう感じたのだ」
……見抜かれている
俺はもといた世界でもそうだった
仕事をし、暮らしていけるだけの収入を得て、趣味はないけれど休日はゆっくり過ごすことができる。体力回復したらまた仕事に行く平凡で淡々と過ぎていく幸せな日常のなかで何かが足りないと感じていた。そして、ある日気付いてしまったのだ。俺には飛び抜けた才能はおろか小さな才能ですらないのだとずっと信じて細々とだがやってきた自分にも何かの才能がありいつかはその才を使って誰かに褒めてもらえると信じていた。信じてやっていたのにとうとう見つからなかった。自暴自棄ぎみになり仕事もやめようかな……なんて思っていたある日、俺はこの世界へとやってきたのだ。でも、せっかく転生したというのにやっぱり俺には特別な能力は何も備わっていなかった……
「おぬし、何を考えておる」
「あ、すみません。ちょっと自分の内側と対話しておりました」
「ふむ、おぬしは自分と向き合う能力は優れておるようじゃが、自分の能力を見極める能力には恵まれておらぬようじゃのぉ」
「自分の能力を見極める能力……」
「そうじゃ、それを鍛えねばいつまでたっても自分の才など見つからんじゃろ」
「はぁ……」
俺は納得がいかなかった、でも腑には落ちた
「おぬしの能力は高い。それを才にするか再び凡にするかはおぬし次第じゃぞ」
「……! 俺の能力ってなんですか?!」
「ふむ、毎朝時間どおりに起きて着替えて洗濯をしてトイレ掃除をする……」
「……それって誰でもできませんか?」
「そうでもないぞよ、できない者もたくさんおる。それに……」
「それに……?」
「おぬしにはその耳があるではないか」
「耳……?」
「そう。おぬし、その耳を持ってしてなぜ駆使せぬのだ。我には理解不能よ」
「耳ってなんですか?」
「ふむ、おぬしステータスページは開いたことあるかの?」
「ステータスページ?なんですかそれは」
「ステータスページとは自身の能力名、能力レベル、体力数値や獲得アイテムがまとめて載っているページである。ちょいと手でハートを作ってみるがよい」
「こうですか?」
俺は手で現代版ハートではなく往年のオーソドックスなハートを作ってみた
「それをふたつに割って、そのまま両手を頭の両側に付ける。そして、“オープン・ステータス”と言ってみるがよい」
俺は言われるがままにハートの半分を頭の右側に、そしてもう半分を左側に持ってきた
「オープン・ステータス」
ブォンッと音を立ててステータスページが現れた!
「うわっ本当に出た、えと……俺のスキルは?」
“スキル言語士
スキルレベル MAX”
と書かれていた
「言語士……とは?」
「じゃ、そういうことで」
チンチラが去ろうとする
「ああ!待って待って!!」
「なんだ、まだなにかあるのか」
「いや、これをどう使えと」
「それぐらい自分で考えろ」
急に冷たい……
「それを有意義に使うかドブに捨てるかはおぬし次第であるぞ」
可愛い見た目してすごいこと言うな
ふぅ…と小さいため息を吐いてチンチラが続けた
「おぬし……すでに使っておるのに気付いておらぬようじゃな……ちなみにハートを閉じたらページも閉じるぞ」
と言ってチンチラさんはそのままぴょんっぴょんっぴょんっとどこかへ……どこかへ……まだいる……振り返ってこっち見てる、追っかけて欲しいのかな?あ、行った……
それはそうと、え、俺すでに使ってるの?どこで?
「うーん」
「何を悩んでいるんだ」
「わっ」
俺がうんうん唸っていると、ベニートが背後からやってきた
「ミチル、洗濯物干しにいかないのか
早く干して昼メシ食べに行こうぜ」
「あ、行く行く」
俺はベニートと一緒に洗濯物を干していき
ふーっと一息ついたところで聞いてみた
「ベニート、ベニートのスキルってなぁに?」
「俺のスキルか?俺は剣士だ」
剣士……かっこいい
それに比べて俺ときたらなんなんだ?この言語士というスキルは
使い勝手が分からん!
仕方ないので俺は今日のランチ、リモーネ国の海鮮料理を頂くことにしたのだった
