言語士誕生

 静かな部屋、夜が飲み込もうとする。暖炉の火が時折パチパチと弾けるが、それを気にする者などここにはいない。気にするのは目の前にいる相手の返事のみ、交渉を進めることこそが俺の役目。

「支援に関することなのですが、ミラベル国との貿易をそろそろ再開したいと存じます」

『“国家間の貿易の再開フェーズに入った”と、言っております』

 事前準備もろくに行われず、急に決まった非公式会議。しかし、この俺ならどんな状況であれしっかりと双方を繋げてみせる

「ふむ、しかしまだナランハ国内の基幹設備は安定しているとは言えません」

『“インフラ設備を整える方が先ではないか”と、おっしゃっています』

「いえ、その件につきましてはご安心を。こちらはすでに輸出入の体制ができております」

『“すべて順調です。輸出入に関しても完璧な体制で望めます”と、言っております』

「……検討はしたいが、課題は多いですな」

 視線がズレる。どこを見ているんだ?ああ、暖炉の方か……薪が爆ぜている

『“前向きに検討します”と、おっしゃっています』

「ありがとうございます!」

 ナランハ国の外相がベリー国の外相の手を握る

 ぎゅっと手を握り返すベリー国外相の眉尻が少し揺れた気がする

 二人はしばらくの間握手をしたままお互いを観察する

 どちらともなく手を離さない

 なぜだろう重苦しさが空気を支配する

 手を離した後でナランハ国外相が笑いかけた

 ベリー国外相はその目を細め微笑み返すがその奥に光る黒さは何を意味するのか

 パチッパチッ……
 暖炉の火が少し燃えすぎている
 ベリー国の外相には少々熱すぎたのかもしれない……


 パタンっ
 こじんまりとした部屋を出る

 会議の終了とともに俺の今日の仕事も無事完了となる。

「ミチルくん。今日も大活躍だったね」

「ありがとうございます。これも外相が私を採用してくださったおかげです」

「はははっ私は優秀なものを見抜く才能を持って生まれただけだ」

「その通りでございます」

「あはははは!!」

 いつもの外相といつもの和やかな会話。

 これでいい。これが俺に与えられた仕事。
 今日も俺は俺の能力を完璧に使いこなす。

 言語士として……


 数日後

 軍事施設カブリミタル

 この場所はチューテッラ海とダトラス海をつなぐ海上交通の要衝である。先の大戦後、ベリー国が実効支配している要塞都市であるが軍事施設としての機能を大いに果たしている

 ここでこの度公式に大会議が行われる。俺はその重要会議に言語士として同席を認められた

 ナランハ国外相の付き人である

 目の前にそびえ立つ扉の奥で俺の実力が試され、国同士の未来が決まるのである

 俺は深呼吸をひとつ、頭に充分な酸素を送る

 よし!いざ、決戦の場へ


 俺の言語士レベルは現在Lev.1

 俺の言語士としての人生がここから始まる