晩餐会から2週間ほどが経ったある日のランチ時
俺たちはそろそろサラさんのお店の人だかりも落ち着いた頃だろうと踏んで訪れた
が、しかしお店の様子がおかしい
初めて来たときは一般的な飲食店くらいのお客さんが出入りしていたのにいまは人の気配が全くない。どういうことだ……?
俺たちは不思議に思ったもののお店のドアを押し開けようとした
ガンっ扉は開かない
鍵がかかっている
お休みか……?
俺たちが入り口で戸惑っていると背後から声がした
「あんたたち!」
声をかけられた方を見るとサラさんが目を吊り上げて震えながらこちらを睨み付けていた
「サラさ……」
「どうしてくれるんだい!!」
「……え?」
「あんたたちの……あんたたちのせいで店が奪われちゃったじゃないか!!」
サラさんの怒声が辺りに響き渡る
それを聞いてやって来たのだろうかジャンが駆け寄ってきた
「サラ!落ち着いてっ」
サラさんはふいっと顔を背けると涙を滲ませて下を向いた。そしてそのままとぼとぼとどこかへ行ってしまった
どういうことだ?俺たちの疑問を察したのかジャンが声をかけてくれた
「お兄ちゃんたち、ここは目立つからあっちで事情を話すよ」
そう言われて辺りを見回すと周りにいた人たちからの冷たい視線が突き刺さっていることに今更ながら気付いた
以前にはなかったあからさまな敵意に俺たちはいたたまれなくなりジャンについていくことにした
少し離れた空き地に俺たちは移動した
「ジャン、いったいどうしたんだ?サラさんのあの剣幕はいったい……」
「実は……お兄ちゃんたちが来た後しばらくはサラの店は見たことのない盛り上がりだった。常連さんだけじゃなく遠くからもお客さんがたくさん来た。でも……ううん、だからこそ届いちゃったんだ」
「届いた……?」
「……お兄ちゃんたち、アーディルさんを覚えてる?」
「あ、うん俺たちが初めてサラさんのお店に行ったとき……その、俺たちのことを嫌ってたあの人だよね?」
「そう。アーディルさんは貴族が大っ嫌い。当たり前だよね、ヴェインクロフト家に借りてた土地の価格を上げられて賃貸料を払えなくなったことを理由に繁盛してた店ごと土地を奪われたんだ。そしてサラも……」
「同じようにそのヴェインクロフトとかいう貴族に土地を奪われたと?」
ランが珍しく怒りをあらわにしながらつぶやいた
「うん。この辺りの土地はほとんどをヴェインクロフト家が所有しているんだ」
「だからあんなに怒っていたのか……」
「でもなんで、サラさんの店だったの?」
俺は疑問に思った。サラさんの店が目をつけられる理由……そうか
「そう、サラの店は以前からそこそこ繁盛してて貴族に目をつけられてた。そこにお兄ちゃんたちが来て人が増えてさらに目立ってしまって、実はそのヴェインクロフトが後押ししてる企業の店が近くにあってそこと競合する店はことごとく追い出されているんだ」
「そ、そんな……」
「そんな事情があったとは……」
「どうすることもできないのか?俺たちにできることは?」
ランがなんとか光を見いだそうとしたがジャンは静かに首を振るのみだった
「サラも分かってる。お兄ちゃんたちのせいじゃないって……でも、気持ちをぶつけるところがなくて」
俺たちは沈んだ気持ちを引いて宿に戻る
宿の戸を押そうとしながら俺は思う。俺たちがこの街にいたらここの宿の人も周囲からなんて言われるか……俺が明日にはここを旅立とうと心に決めたそのとき
「なんか困ってるみたいだねぇ」
背後から声がした
「シャンカル?こんなところで何してるの」
シャンカルはこの間の晩餐会の情報をくれた男、なんでも貿易関連の仕事をしているらしい
「いやー君たちがここに泊まってるって情報を得てね、来ちゃった。ミチル、君に頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
黒く紫に染められた靄がその場を覆うように神秘的で不穏な気配を有してシャンカルは笑うのだった
数日後
俺は王宮に呼ばれた
王宮の謁見室にてベリー国とアーム国の取引が行われていた
俺は通訳として両者の間に立っている
「この香辛料を貴国から輸入したいと存じます」
『“貴国の香辛料を輸入したい”とおっしゃられています』
「もちろんです。これがなければカレーは完成しません。ぜひご活用ください」
『“カレーはこれがあってこそ、カレーとなり得るのです”とおっしゃられています』
…………
見覚えのある小さな後ろ姿
その少年に声をかける
ここを去ることを告げるとともに手紙を託した
サラさんへ
この度は俺たちの軽率な行動でこのような状況に陥らせてしまい申し訳ありません。
俺たちはこの街を去ります。その前にどうしても伝えたいことがあって手紙を書きました。下に書いてある住所の場所を訪ねてみてください。そこにある商品を販売していただきたいのです。この街での販売権はサラさんに託します。この販売権は分けていただいても構いません。詳しいことは住所の場所にいるフランツさんに聞いてください。
フォン・ヴェルデンベルク邸の住所
ミチルより
俺は船の上でサラさんやジャンの顔を思い出す
美味しいものは文化や立場を越えるかもしれない。でも、それでも見えない層は消えない。貴族が奪ったものを、また貴族が与える。
今の俺には、これくらいしかできない
俺たちはそろそろサラさんのお店の人だかりも落ち着いた頃だろうと踏んで訪れた
が、しかしお店の様子がおかしい
初めて来たときは一般的な飲食店くらいのお客さんが出入りしていたのにいまは人の気配が全くない。どういうことだ……?
俺たちは不思議に思ったもののお店のドアを押し開けようとした
ガンっ扉は開かない
鍵がかかっている
お休みか……?
俺たちが入り口で戸惑っていると背後から声がした
「あんたたち!」
声をかけられた方を見るとサラさんが目を吊り上げて震えながらこちらを睨み付けていた
「サラさ……」
「どうしてくれるんだい!!」
「……え?」
「あんたたちの……あんたたちのせいで店が奪われちゃったじゃないか!!」
サラさんの怒声が辺りに響き渡る
それを聞いてやって来たのだろうかジャンが駆け寄ってきた
「サラ!落ち着いてっ」
サラさんはふいっと顔を背けると涙を滲ませて下を向いた。そしてそのままとぼとぼとどこかへ行ってしまった
どういうことだ?俺たちの疑問を察したのかジャンが声をかけてくれた
「お兄ちゃんたち、ここは目立つからあっちで事情を話すよ」
そう言われて辺りを見回すと周りにいた人たちからの冷たい視線が突き刺さっていることに今更ながら気付いた
以前にはなかったあからさまな敵意に俺たちはいたたまれなくなりジャンについていくことにした
少し離れた空き地に俺たちは移動した
「ジャン、いったいどうしたんだ?サラさんのあの剣幕はいったい……」
「実は……お兄ちゃんたちが来た後しばらくはサラの店は見たことのない盛り上がりだった。常連さんだけじゃなく遠くからもお客さんがたくさん来た。でも……ううん、だからこそ届いちゃったんだ」
「届いた……?」
「……お兄ちゃんたち、アーディルさんを覚えてる?」
「あ、うん俺たちが初めてサラさんのお店に行ったとき……その、俺たちのことを嫌ってたあの人だよね?」
「そう。アーディルさんは貴族が大っ嫌い。当たり前だよね、ヴェインクロフト家に借りてた土地の価格を上げられて賃貸料を払えなくなったことを理由に繁盛してた店ごと土地を奪われたんだ。そしてサラも……」
「同じようにそのヴェインクロフトとかいう貴族に土地を奪われたと?」
ランが珍しく怒りをあらわにしながらつぶやいた
「うん。この辺りの土地はほとんどをヴェインクロフト家が所有しているんだ」
「だからあんなに怒っていたのか……」
「でもなんで、サラさんの店だったの?」
俺は疑問に思った。サラさんの店が目をつけられる理由……そうか
「そう、サラの店は以前からそこそこ繁盛してて貴族に目をつけられてた。そこにお兄ちゃんたちが来て人が増えてさらに目立ってしまって、実はそのヴェインクロフトが後押ししてる企業の店が近くにあってそこと競合する店はことごとく追い出されているんだ」
「そ、そんな……」
「そんな事情があったとは……」
「どうすることもできないのか?俺たちにできることは?」
ランがなんとか光を見いだそうとしたがジャンは静かに首を振るのみだった
「サラも分かってる。お兄ちゃんたちのせいじゃないって……でも、気持ちをぶつけるところがなくて」
俺たちは沈んだ気持ちを引いて宿に戻る
宿の戸を押そうとしながら俺は思う。俺たちがこの街にいたらここの宿の人も周囲からなんて言われるか……俺が明日にはここを旅立とうと心に決めたそのとき
「なんか困ってるみたいだねぇ」
背後から声がした
「シャンカル?こんなところで何してるの」
シャンカルはこの間の晩餐会の情報をくれた男、なんでも貿易関連の仕事をしているらしい
「いやー君たちがここに泊まってるって情報を得てね、来ちゃった。ミチル、君に頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
黒く紫に染められた靄がその場を覆うように神秘的で不穏な気配を有してシャンカルは笑うのだった
数日後
俺は王宮に呼ばれた
王宮の謁見室にてベリー国とアーム国の取引が行われていた
俺は通訳として両者の間に立っている
「この香辛料を貴国から輸入したいと存じます」
『“貴国の香辛料を輸入したい”とおっしゃられています』
「もちろんです。これがなければカレーは完成しません。ぜひご活用ください」
『“カレーはこれがあってこそ、カレーとなり得るのです”とおっしゃられています』
…………
見覚えのある小さな後ろ姿
その少年に声をかける
ここを去ることを告げるとともに手紙を託した
サラさんへ
この度は俺たちの軽率な行動でこのような状況に陥らせてしまい申し訳ありません。
俺たちはこの街を去ります。その前にどうしても伝えたいことがあって手紙を書きました。下に書いてある住所の場所を訪ねてみてください。そこにある商品を販売していただきたいのです。この街での販売権はサラさんに託します。この販売権は分けていただいても構いません。詳しいことは住所の場所にいるフランツさんに聞いてください。
フォン・ヴェルデンベルク邸の住所
ミチルより
俺は船の上でサラさんやジャンの顔を思い出す
美味しいものは文化や立場を越えるかもしれない。でも、それでも見えない層は消えない。貴族が奪ったものを、また貴族が与える。
今の俺には、これくらいしかできない
