この世界に来てから10年が経った
俺はナランハ国外相の通訳として大舞台を迎えようとしていた
今日はナランハ国とベリー国の代表団が勢揃いする重要会議が行われる
ナランハ国はベリー国に先の大戦に敗れ、国は存続を認められたもののベリー国の属国となり実質ベリー国の言いなりになるしかない状況が続いている。無論ナランハ国は自ら自由に貿易や他国との交流を行うことを禁じられていた。復興が進んだいまナランハ国はどうにか貿易を再開したいと躍起になっているのだった。
ここから俺の言語士人生が始まると言っても過言ではないターニングポイント、俺はめずらしく緊張していた
「ミチルくん、分かっているだろうが、今日の会議はいつにもまして気合いを入れてくれよ?国の命運をかけた重要な場だ。失敗は絶対に許されない」
「はい、分かっております。ナランハ国の未来を必ずや繋いでみせます」
大きな扉が開かれる
俺は外相に続いて大会議室へと足を踏み入れた。そこにはナランハ国とベリー国の代表団がそれぞれ右と左に分かれて座っていた
真ん中に外相が座り、俺がその少し後ろに立つと、少し遅れてベリー国の外相、そして外相の付き人兼通訳がともに会議室へ入ってきた。
ん?数日前の非公式会議のときには通訳はおろか付き人すらいなかったというのに……新しい人を雇ったのかな……?
「ではこれよりベリー国とナランハ国による第12回共同運用計画会議を行います」
共同運用とは名ばかり、これまでベリー国がナランハ国の提案をのんだことなど一度もない。しかし、先日やっとのことでこぎつけたベリー国外相との非公式会議、そこでナランハ国の計画が前進する内容でまとめることができた。このままいけば外相は出世間違いなしである。そして、俺も通訳として……いや、言語士として大きな信頼を得られるに違いない。
会議は順調に進んだ。
そして、最重要項目、貿易についての話し合いが始まった。
「ナランハ国側の意見としては近々ミラベル国との貿易を再開したいと考えております」
ベリー国側の通訳がベリー国外相に耳打ちする
「ふむ、ベリー国としてはそれは勇み足に思えてなりません。ナランハ国は復興に力を入れるべきでは?」
俺は外相に伝えた
「なんですと?復興するためには貿易を行うことが最も効果的であることは外相もお分かりでしょう!それにこの間だって……」
そこまで言ってナランハ国外相は言い淀んだ。さすがに非公式会議のことをこの場で口に出すのはまずい。外相も気付いたようだ
すると、
「なるほど、ではこうしましょう。輸出品の確保を最優先にし、その利益の3割を我々にお支払いただくのであれば考えます。たとえば、ナランハ国内にはオレンジの木がそこかしこに生えているらしいですな~」
何を急に……そう思ったが、俺はそのまま外相に伝える
「……ええ、我々の大切なシンボルですが。なにか?」
「その価値ある果実を輸出品として育てる期間になされては?それが最大価値に繋がるのではないですかな」
俺はそのまま伝える。……が、しかし
「なんですと?!我々の象徴を国家利益の対象にすると言うのか!!」
外相がめずらしく声を荒げた
「おとなしく聞いておれば好き勝手言いやがって!ナランハの木は我々にとって誇りであり復興の光でもあるのだぞ、沈む心をナランハの木を見上げることでどれだけ多くの民が救われてきたと思っておるのか!!それを経済の出しにしろなどと軽々しく口にしおって……!!」
外相は悔しさの滲む声で涙を潤ませ言い放った。しかし……
「何をそんなに興奮していらっしゃるのですか、貿易を優先したいとおっしゃったのはそちらではありませんか。抱えているだけでは価値にはなりませぬぞ……」
と、相手には伝わらない。同じ事柄について話しているのに一方では“象徴”、もう一方では“利益”なぜか違う層で話しているような……どうしたものか、その場で俺はなにもできなかった
結局この会議は打ちきりになり、議題は来年へと持ち越されることになったのだった
俺は施設へと戻り、自室でうなだれた
何がいけなかったのだろうか、通訳は完璧だったはず……なのに、なんで……
そのとき窓辺から声がした
「ミチルよ、打ちひしがれておるな」
「何しに来たんですか、俺の今の状況を笑いにでもきたんですか」
俺は自分の中にあるモヤモヤやイライラをついチンチラさんにぶつけてしまった
「ミチルよ、今回の会議、何が悪かったのだと思う」
「通訳は完璧だった、ベリー国とナランハ国の外相が言ってることも理解できた……でも!」
「そう、悪いところなんてひとつも無かったのじゃよ」
「……え、じゃあなんで」
「表面的には何も悪いところはない。お互いに主張しないといけないことは主張できた。しかしな、それだけでは共に歩むことはできぬのじゃよ。それが、国家間であろうと人種間であろうと同じことよ。おぬしはそこを分かっておらんかったのじゃ」
そう言うとチンチラさんはいつものごとくすーっと消えていってしまった
そのとき、
コンコン、と自室をノックする音が聞こえた
ガチャ
「ミチル、大丈夫?」
ランだった
「これ、今日の昼食。ミチルの好きなパエリアだよ。お昼になるといつも飛んでくるのに今日はミチルが現れなかったからみんな心配してたよ」
「……ありがとう」
ベッドに腰かけて食べる。お行儀が悪いが、今はそんなこと気にしていられない
ランはその横で俺を見守ってくれた
ひとくち。
パエリア……ご馳走だ。パエリアがお祝い料理だなんてここに来てから知ったな……
そういえば、ここに来てから初めて知ることだらけだったな……西洋風の世界だし、もといた世界で培った知識でなんとなくいけるだろうとたかをくくっていたが暮らしていくうちに学ぶことは多くて日々新しい知識が増えていく。俺はキオクソウシツということになっているのでみんな快く教えてくれて、ありがたかったな
でもそうだな。今日初めて知ったこと。
“ナランハの木が国の象徴”だってこと
これを知っていれば、通訳の段階で俺が伝え方を変えて今日の外相の憤怒を抑えることができたのかもしれない
そうか、文化を知っていれば……
ポタっポタっ
なんか涙が出てきた
「ミチル?」
「あ、ごめん。パエリアが塩っからくなっちゃうね」
なんて笑ってごまかしてみたけど、ランには通用しなかったみたいで
「ミチル、辛いときは泣いていいんだよ」
ふっラン、いつの間にこんなに大きくなったんだろう。ランがいつだったか俺がやってあげたみたいに頭を撫でてくれる
「ふっ、なんか昔と逆だなぁ」
「そうだね、でもミチルがやってくれたから俺は学んだんだよ」
「え?どうゆうこと?」
「頭をポンポンしてもらうことがあんなに心を穏やかにしてくれるなんて知らなかった。俺はあのとき初めて知ったんだ」
あ、そうか。頭ポンポンひとつ取っても育った環境で意味が変わるのか……そうか、そうだよな。なんで俺は今まで気付かなかったんだろうか、そりゃそうだよ!生まれ育った環境、過ごした場所、国、世界で違うんだよ!それを知らなきゃ通訳、ましてや言語士なんて務まらないじゃないか……そうか、そうだったのか!
俺はさっきまでの涙はどこに行ったのか分からないほど新しい発見に胸を踊らせていた
「ねぇ、ラン!ランの生まれ育った場所ってどんなところ?」
「え、俺の故郷?うーん、小さかったからあんまり覚えてないけど。たしか、赤い提灯がそこかしこに垂れ下がっていたな」
「赤い提灯?」
「うん。お祝い事だったのかなんか楽器の音もしてた。細長い弦楽器が主旋律を弾いてたよ」
それくらいしか覚えてないけど、と言ってランは笑った
「へぇ~行ってみたいな~」
「そうだね、いつか行けるといいね。でも、残念ながら俺は自分がどこから来たのか覚えてないんだ」
「そうなのか……」
「だからね、俺旅に出たいんだ!旅に出て世界中を回って俺のルーツを探したい!そのときはミチルも付いてきてよ」
「え、俺?!」
「うん。だってミチルのスキルって言語士なんでしょ?それって世界中の人と話せるってことじゃん!とっても素敵だよ」
「そう……かな、でも俺、言葉は分かっても文化が分からないから」
「分からないから学ぶんじゃん!学ぶためには実際に触れてみないと」
そう言ってランは俺の手を握った
「そうか、そうだよね!」
ボォォォォオ…
汽笛が鳴る
2年後、出航の日
こうして俺たちの旅が始まったのである
俺とランとなぜか……ベニートも一緒に
俺のスキルレベルは現在Lev.0である
ここから本当の言語士人生が始まる。仲間とともに
俺はナランハ国外相の通訳として大舞台を迎えようとしていた
今日はナランハ国とベリー国の代表団が勢揃いする重要会議が行われる
ナランハ国はベリー国に先の大戦に敗れ、国は存続を認められたもののベリー国の属国となり実質ベリー国の言いなりになるしかない状況が続いている。無論ナランハ国は自ら自由に貿易や他国との交流を行うことを禁じられていた。復興が進んだいまナランハ国はどうにか貿易を再開したいと躍起になっているのだった。
ここから俺の言語士人生が始まると言っても過言ではないターニングポイント、俺はめずらしく緊張していた
「ミチルくん、分かっているだろうが、今日の会議はいつにもまして気合いを入れてくれよ?国の命運をかけた重要な場だ。失敗は絶対に許されない」
「はい、分かっております。ナランハ国の未来を必ずや繋いでみせます」
大きな扉が開かれる
俺は外相に続いて大会議室へと足を踏み入れた。そこにはナランハ国とベリー国の代表団がそれぞれ右と左に分かれて座っていた
真ん中に外相が座り、俺がその少し後ろに立つと、少し遅れてベリー国の外相、そして外相の付き人兼通訳がともに会議室へ入ってきた。
ん?数日前の非公式会議のときには通訳はおろか付き人すらいなかったというのに……新しい人を雇ったのかな……?
「ではこれよりベリー国とナランハ国による第12回共同運用計画会議を行います」
共同運用とは名ばかり、これまでベリー国がナランハ国の提案をのんだことなど一度もない。しかし、先日やっとのことでこぎつけたベリー国外相との非公式会議、そこでナランハ国の計画が前進する内容でまとめることができた。このままいけば外相は出世間違いなしである。そして、俺も通訳として……いや、言語士として大きな信頼を得られるに違いない。
会議は順調に進んだ。
そして、最重要項目、貿易についての話し合いが始まった。
「ナランハ国側の意見としては近々ミラベル国との貿易を再開したいと考えております」
ベリー国側の通訳がベリー国外相に耳打ちする
「ふむ、ベリー国としてはそれは勇み足に思えてなりません。ナランハ国は復興に力を入れるべきでは?」
俺は外相に伝えた
「なんですと?復興するためには貿易を行うことが最も効果的であることは外相もお分かりでしょう!それにこの間だって……」
そこまで言ってナランハ国外相は言い淀んだ。さすがに非公式会議のことをこの場で口に出すのはまずい。外相も気付いたようだ
すると、
「なるほど、ではこうしましょう。輸出品の確保を最優先にし、その利益の3割を我々にお支払いただくのであれば考えます。たとえば、ナランハ国内にはオレンジの木がそこかしこに生えているらしいですな~」
何を急に……そう思ったが、俺はそのまま外相に伝える
「……ええ、我々の大切なシンボルですが。なにか?」
「その価値ある果実を輸出品として育てる期間になされては?それが最大価値に繋がるのではないですかな」
俺はそのまま伝える。……が、しかし
「なんですと?!我々の象徴を国家利益の対象にすると言うのか!!」
外相がめずらしく声を荒げた
「おとなしく聞いておれば好き勝手言いやがって!ナランハの木は我々にとって誇りであり復興の光でもあるのだぞ、沈む心をナランハの木を見上げることでどれだけ多くの民が救われてきたと思っておるのか!!それを経済の出しにしろなどと軽々しく口にしおって……!!」
外相は悔しさの滲む声で涙を潤ませ言い放った。しかし……
「何をそんなに興奮していらっしゃるのですか、貿易を優先したいとおっしゃったのはそちらではありませんか。抱えているだけでは価値にはなりませぬぞ……」
と、相手には伝わらない。同じ事柄について話しているのに一方では“象徴”、もう一方では“利益”なぜか違う層で話しているような……どうしたものか、その場で俺はなにもできなかった
結局この会議は打ちきりになり、議題は来年へと持ち越されることになったのだった
俺は施設へと戻り、自室でうなだれた
何がいけなかったのだろうか、通訳は完璧だったはず……なのに、なんで……
そのとき窓辺から声がした
「ミチルよ、打ちひしがれておるな」
「何しに来たんですか、俺の今の状況を笑いにでもきたんですか」
俺は自分の中にあるモヤモヤやイライラをついチンチラさんにぶつけてしまった
「ミチルよ、今回の会議、何が悪かったのだと思う」
「通訳は完璧だった、ベリー国とナランハ国の外相が言ってることも理解できた……でも!」
「そう、悪いところなんてひとつも無かったのじゃよ」
「……え、じゃあなんで」
「表面的には何も悪いところはない。お互いに主張しないといけないことは主張できた。しかしな、それだけでは共に歩むことはできぬのじゃよ。それが、国家間であろうと人種間であろうと同じことよ。おぬしはそこを分かっておらんかったのじゃ」
そう言うとチンチラさんはいつものごとくすーっと消えていってしまった
そのとき、
コンコン、と自室をノックする音が聞こえた
ガチャ
「ミチル、大丈夫?」
ランだった
「これ、今日の昼食。ミチルの好きなパエリアだよ。お昼になるといつも飛んでくるのに今日はミチルが現れなかったからみんな心配してたよ」
「……ありがとう」
ベッドに腰かけて食べる。お行儀が悪いが、今はそんなこと気にしていられない
ランはその横で俺を見守ってくれた
ひとくち。
パエリア……ご馳走だ。パエリアがお祝い料理だなんてここに来てから知ったな……
そういえば、ここに来てから初めて知ることだらけだったな……西洋風の世界だし、もといた世界で培った知識でなんとなくいけるだろうとたかをくくっていたが暮らしていくうちに学ぶことは多くて日々新しい知識が増えていく。俺はキオクソウシツということになっているのでみんな快く教えてくれて、ありがたかったな
でもそうだな。今日初めて知ったこと。
“ナランハの木が国の象徴”だってこと
これを知っていれば、通訳の段階で俺が伝え方を変えて今日の外相の憤怒を抑えることができたのかもしれない
そうか、文化を知っていれば……
ポタっポタっ
なんか涙が出てきた
「ミチル?」
「あ、ごめん。パエリアが塩っからくなっちゃうね」
なんて笑ってごまかしてみたけど、ランには通用しなかったみたいで
「ミチル、辛いときは泣いていいんだよ」
ふっラン、いつの間にこんなに大きくなったんだろう。ランがいつだったか俺がやってあげたみたいに頭を撫でてくれる
「ふっ、なんか昔と逆だなぁ」
「そうだね、でもミチルがやってくれたから俺は学んだんだよ」
「え?どうゆうこと?」
「頭をポンポンしてもらうことがあんなに心を穏やかにしてくれるなんて知らなかった。俺はあのとき初めて知ったんだ」
あ、そうか。頭ポンポンひとつ取っても育った環境で意味が変わるのか……そうか、そうだよな。なんで俺は今まで気付かなかったんだろうか、そりゃそうだよ!生まれ育った環境、過ごした場所、国、世界で違うんだよ!それを知らなきゃ通訳、ましてや言語士なんて務まらないじゃないか……そうか、そうだったのか!
俺はさっきまでの涙はどこに行ったのか分からないほど新しい発見に胸を踊らせていた
「ねぇ、ラン!ランの生まれ育った場所ってどんなところ?」
「え、俺の故郷?うーん、小さかったからあんまり覚えてないけど。たしか、赤い提灯がそこかしこに垂れ下がっていたな」
「赤い提灯?」
「うん。お祝い事だったのかなんか楽器の音もしてた。細長い弦楽器が主旋律を弾いてたよ」
それくらいしか覚えてないけど、と言ってランは笑った
「へぇ~行ってみたいな~」
「そうだね、いつか行けるといいね。でも、残念ながら俺は自分がどこから来たのか覚えてないんだ」
「そうなのか……」
「だからね、俺旅に出たいんだ!旅に出て世界中を回って俺のルーツを探したい!そのときはミチルも付いてきてよ」
「え、俺?!」
「うん。だってミチルのスキルって言語士なんでしょ?それって世界中の人と話せるってことじゃん!とっても素敵だよ」
「そう……かな、でも俺、言葉は分かっても文化が分からないから」
「分からないから学ぶんじゃん!学ぶためには実際に触れてみないと」
そう言ってランは俺の手を握った
「そうか、そうだよね!」
ボォォォォオ…
汽笛が鳴る
2年後、出航の日
こうして俺たちの旅が始まったのである
俺とランとなぜか……ベニートも一緒に
俺のスキルレベルは現在Lev.0である
ここから本当の言語士人生が始まる。仲間とともに
