災厄はどこにいる?

「災厄が現れる!!」

 その日、全ての占星術師(せんせいじゅつし)が全く同じ占いの結果を映した。
 水晶に、水に、鏡に、あるいは自らの血の上に。
 初めは、あまりに抽象的な占い結果を真剣に受け止める権力者は少なかった。
 占星術は当たることもあれば外れることもあるが、この時ばかりは違った。

「ぁああああ!? 最古の予言と、一緒……一緒だ……! 一緒じゃない!! ふざけんな! 凶兆どころの話じゃない! なんも……なんも見えねえ!! いや、見えなくなる……!

 この大陸の十以上ある国にはそれぞれ国の未来を占う国家占星術師達がいる。その半数が同じようなことを言い残し、恐怖と脅えからその地位を捨てて逃げ出した。
 国家が直接雇っている占星術師が凶兆を察して逃げ出す異常事態。そんな事態にもかかわらず、各地の王達は余裕の笑みを浮かべていた。
 その理由は、まだ全ての能力が異能と呼ばれていた時代……最古の占星術師が最期に遺した予言。まだ占星術師と呼ばれる術者がいなかった頃にされたものだった。

 我々が災厄と呼ぶ存在が現れ、この災厄を手にした者が時代の覇者となる。

 その後、世界を変えるような災害も戦争も起きておらず、この最期の予言は時代を経て……どれだけ強大な力を持っていようと間違いはある、そんな強者の驕りを諭す教訓のような伝説となっていた。
 しかし、この日その伝説の意味も変わる。

「あの伝説の予言は外れていたわけではなかったということか?」
「そもそも作り話ではないのか!? 数多の伝承のように!」

 最初に困惑。そして、次に欲望が世界中を走った。

「だが我が国の占星術師が同時にだ。国家占星術師に至っては逃げ出す始末……これも作り話にするつもりか? 歴史を改竄して、今月も変わらぬ日常が続いた、と後の歴史学者に捨て置かれるような平凡な世界にしようとでも!?」

 国のトップに立つような人間は誰もそんなことを望まない。
 現代の占星術師達によって信ぴょう性が高まった最古の予言が、為政者達の欲望の器になるのは必然だった。

「手に入れろ! その災厄とやらを!」
「我が国が一番に! どんなものかわからない!? それでもだ!」
「見つけ次第破壊しろ! 我が国にとってそんな不確定要素は不要だ!」
「他を出し抜け! 大国だろうと関係ない! 我が国にこそ!」
「探せ! 災厄の居場所はどこだ!?」

 ある国は船を出し、ある国は飛竜で飛び立ち、ある国は異能持ちを総動員した。
 ある国は戦争を止め、ある国は王族殺しが行われ、ある国は混乱を防ぐべく立ち上がった。
 占星術も魔術も異能も、国にいる全ての能力者を動かしながら為政者達は叫ぶ。

「災厄はどこにいる!?」

 普段の建前を喋る口で、自らの欲望を。
 国の未来を見据える目は眩んでいて。
 災厄と呼ばれる何かを支配できる気でいる傲慢さに、誰も気付いていなかった。