恋愛回路

「丹羽くん、会計係のほうは慣れてきた?」
 月末も近付いてきたある日、活動時間中に副部長から声をかけられた。
「はい、最初の頃よりはだいぶ……。皆さんスムーズに提出してくれるので、とても助かってます」
 僕は副部長に素直な所感を返した。
 副部長をはじめとした部員たちは、毎月僕が呼びかけると速やかに部費を持ってきてくれる。そのお陰で、入部当初に心配していたようなことは大概が杞憂となってくれていた。本当に有難いと思っている。
 もちろん、ただ一人を除いてだが。
「でも部長だけは例外ですね」
「例外?」
「あの人、すごくルーズっていうか忘れっぽいっていうか……。何度も催促してるのに、毎月ギリギリまで払ってくれないんですよ。きっと前任の会計係も苦労してたんでしょう?」
 部長の陰口を叩くようで少し気は引けるが、そのせいで苦労しているのは事実なので仕方がない。実際、今月の部費も部長以外からは全て回収できているのに、彼だけがいまだ未納状態なのである。
 ルーズな性分を直せと言うのも難しいのかもしれないが、部長には困らせられている。そう溢すと、副部長は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「そうなんだ? おかしいなぁ。去年まではそんなことなかったんだけど……」
「え?」
「俺が知る限りでは、一年の頃から一度も遅れたことなんかなかったと思うよ。いくら成績が良くても、さすがに部費を滞納したら除名処分になるしね」
 一応そこらへんはちゃんとしているはずだ、と。一年生の頃からの付き合いである副部長はそう言った。
 僕が会計係になるまでは、部長は回収を呼びかければ毎月すぐに部費を支払ってくれていたらしい。そんなの初耳だ。僕は脳天に疑問符を浮かばせ、すっかり狐につままれたような気持ちになっていた。
 あの天才的な作品を作り上げる頭脳を持つ部長が、今年度になって急に物忘れが激しくなったとは考えにくい。ということは、忘れていたという彼の言い分は嘘で、本当はちゃんと部費のことを覚えていたってことか? その上で、あえてギリギリまで払ってくれなかった。
 一体、なんのために?
 そう考えた時、僕に導き出せる結論はひとつしかなかった。