純白のスポットライトが、俺の全身を焼き尽くすように照らしていた。
舞台の上は、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。
暗闇に沈む数百席の客席からは、衣擦れの音も、咳払い一つ聞こえない。審査員も、他校の生徒たちも、呼吸をすることすら忘れたように、舞台の中央に立つ『見知らぬ美少女』に完全に呑まれていた。
肌を刺すような絶対的な集中と、ホールの空気がひとつに束ねられる圧倒的な熱気。
『誰も、本当の私を知らない』
その絶対的な安心感と、目の前で熱を帯びた瞳を向けてくる大河への、どうしようもない本物の恋心。その二つが完全に融け合った時、俺の指先の震えも、伏せられた睫毛の揺れも、すべてが痛々しいほどに純粋な『恋する少女』そのものになっていた。
今、俺は誰の目から見ても、完璧なヒロインになれている。
その全能感が、甘い麻薬となって思考を白く染め上げていく。
「――ずっと、君のそばにいたい」
大河が、ひどく甘く、熱を帯びた声で囁いた。
それは、彼自身が書き上げた台本通りの、一言一句違わぬ嘘の台詞だ。
けれど俺は、その言葉に、花が綻ぶような最高の微笑みを作って返した。
「私も。……この時間が、永遠に続けばいいのに」
『台本』という名の、免罪符。
普段の、ただのガサツな男友達という立場では、こんなにも熱のこもった視線を向けることなど絶対に許されない。彼に触れることも、愛を乞うことも、すべては気持ちの悪いノイズとして切り捨てられるだけだ。
けれど、この分厚い台本という隠れ蓑さえあれば。
俺は、心の奥底で煮詰まり、腐りかけていたドロドロの感情を、美しい台詞に乗せて、堂々と彼にぶつけることができる。
『台本があるから、私はあなたを見つめられる。台詞だから、あなたに触れられる』
大河が一歩、踏み込んでくる。
彼の手が、ドレス越しに俺の腰を引き寄せた。
一気に距離が縮まり、お互いの鼻先が触れ合うほどの至近距離になる。
ハッとするほど、綺麗な瞳だった。
俺を真っ直ぐに射抜く大河の黒い瞳には、陽気でガサツな幼馴染の面影は一切ない。そこにあるのは、ただ目の前のヒロインを心の底から深く、狂おしいほどに愛している、一人の男の切実な熱だけだった。
彼は決して、俺自身に恋しているわけではない。
それでも、舞台の上の彼は『完璧な相手役』として、俺をどこまでも深く愛し抜いてくれる。その本気で愛しているようにしか見えない凄まじい熱演が、甘い猛毒となって俺の心臓を物理的に鷲掴みにする。
密着した身体から伝わってくる、確かな男の骨格。シトラスの香り。そして、切羽詰まったような熱い呼吸。
俺の胸の奥で、芝居であることを完全に忘れた心臓が、耳を塞ぎたくなるほど激しく暴れ回っていた。
白く、眩しすぎる光の輪の中。
大河の強い腕に抱きしめられながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
『これが全部、お芝居の嘘だなんて分かってる』
この圧倒的に美しい光の世界は、作り物だ。
やがて無慈悲な幕が下り、十二時の鐘が鳴れば、俺はまたただの『親友』という安全で残酷な暗闇へ帰らなければならない。
だからこそ。
彼の瞳に映る俺が、世界で一番愛おしい存在として扱われているこの瞬間だけは、誰にも奪わせない。
俺は、この眩しすぎるスポットライトの魔法の中で、一秒でも長く彼に愛されていたいと強く願いながら。
溢れ出しそうになる感情をすべて縫い込めるように、俺の人生で最も美しく、最も幸福な笑顔を、彼のためだけに咲かせた。
舞台の上は、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。
暗闇に沈む数百席の客席からは、衣擦れの音も、咳払い一つ聞こえない。審査員も、他校の生徒たちも、呼吸をすることすら忘れたように、舞台の中央に立つ『見知らぬ美少女』に完全に呑まれていた。
肌を刺すような絶対的な集中と、ホールの空気がひとつに束ねられる圧倒的な熱気。
『誰も、本当の私を知らない』
その絶対的な安心感と、目の前で熱を帯びた瞳を向けてくる大河への、どうしようもない本物の恋心。その二つが完全に融け合った時、俺の指先の震えも、伏せられた睫毛の揺れも、すべてが痛々しいほどに純粋な『恋する少女』そのものになっていた。
今、俺は誰の目から見ても、完璧なヒロインになれている。
その全能感が、甘い麻薬となって思考を白く染め上げていく。
「――ずっと、君のそばにいたい」
大河が、ひどく甘く、熱を帯びた声で囁いた。
それは、彼自身が書き上げた台本通りの、一言一句違わぬ嘘の台詞だ。
けれど俺は、その言葉に、花が綻ぶような最高の微笑みを作って返した。
「私も。……この時間が、永遠に続けばいいのに」
『台本』という名の、免罪符。
普段の、ただのガサツな男友達という立場では、こんなにも熱のこもった視線を向けることなど絶対に許されない。彼に触れることも、愛を乞うことも、すべては気持ちの悪いノイズとして切り捨てられるだけだ。
けれど、この分厚い台本という隠れ蓑さえあれば。
俺は、心の奥底で煮詰まり、腐りかけていたドロドロの感情を、美しい台詞に乗せて、堂々と彼にぶつけることができる。
『台本があるから、私はあなたを見つめられる。台詞だから、あなたに触れられる』
大河が一歩、踏み込んでくる。
彼の手が、ドレス越しに俺の腰を引き寄せた。
一気に距離が縮まり、お互いの鼻先が触れ合うほどの至近距離になる。
ハッとするほど、綺麗な瞳だった。
俺を真っ直ぐに射抜く大河の黒い瞳には、陽気でガサツな幼馴染の面影は一切ない。そこにあるのは、ただ目の前のヒロインを心の底から深く、狂おしいほどに愛している、一人の男の切実な熱だけだった。
彼は決して、俺自身に恋しているわけではない。
それでも、舞台の上の彼は『完璧な相手役』として、俺をどこまでも深く愛し抜いてくれる。その本気で愛しているようにしか見えない凄まじい熱演が、甘い猛毒となって俺の心臓を物理的に鷲掴みにする。
密着した身体から伝わってくる、確かな男の骨格。シトラスの香り。そして、切羽詰まったような熱い呼吸。
俺の胸の奥で、芝居であることを完全に忘れた心臓が、耳を塞ぎたくなるほど激しく暴れ回っていた。
白く、眩しすぎる光の輪の中。
大河の強い腕に抱きしめられながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
『これが全部、お芝居の嘘だなんて分かってる』
この圧倒的に美しい光の世界は、作り物だ。
やがて無慈悲な幕が下り、十二時の鐘が鳴れば、俺はまたただの『親友』という安全で残酷な暗闇へ帰らなければならない。
だからこそ。
彼の瞳に映る俺が、世界で一番愛おしい存在として扱われているこの瞬間だけは、誰にも奪わせない。
俺は、この眩しすぎるスポットライトの魔法の中で、一秒でも長く彼に愛されていたいと強く願いながら。
溢れ出しそうになる感情をすべて縫い込めるように、俺の人生で最も美しく、最も幸福な笑顔を、彼のためだけに咲かせた。


