思い出さなければよかったのに

 長く不遇な時代を過ごし、海外で大きな賞を受賞して、やっとこれからというときに事故で亡くなった悲劇の写真家。
 恋人は人気モデルでタレントの森口彩乃。

 一年前、このニュースは瞬く間に日本中を駆け巡り、切ない悲恋話として大きく取り上げられた。
 そして私は長いあいだ待っていた恋人を失った悲劇のヒロインとして注目を浴び、連日マスコミに追いかけられることとなる。

『幼馴染の恋人を襲った悲劇』
『不遇時代を支えた献身』
『写真にこめた恋人への想い』

 雄大が賞を取った作品はもちろん有名になったけれど、日本でもっと脚光を浴びたのは、そのあとで遺作として公開された写真のほうだった。

『おかえり、またね』

 私がタイトルをつけたその作品は、朝焼けの空が見える窓を背景に、泣き笑いの表情を浮かべている女性の写真。
 頬を伝う涙が光を反射して輝いている。

 私が自分達を実名で使用した恋愛小説を執筆したのは、雄大の事故の二ヶ月後のことだ。

 雄大の死後、彼への使命感に追い立てられるかのようにすぐに仕事に復帰したものの、私は上手く笑顔が作れなくなっていた。
 社長に言われて休業した私は、持て余した時間を文章を書く事で紛らわせた。

 彼との思い出を記録に残しておきたくて、思いつくままに書き綴った言葉。
 それがマネージャーの目にとまり、雄大の写真、『おかえり、またね』を表紙にして春に出版されると、たちまちベストセラーとなる。