思い出さなければよかったのに

『森口さん、木崎さんの遺作であり、小説の表紙にも使用されたこの写真ですが、撮影されたときの状況を教えていただけますか?』

 マイクを持ったインタビュアーが、次々と質問を投げてくる。

「これは彼が自分のカメラで撮ってくれた、最初で最後の私の写真です。二人で住んでいたマンションで撮ってもらいました」

『撮影者であり恋人であった木崎雄大さんと、撮影時にどのような会話をされたのか。この涙の理由は?』

「撮影時期や、何を話したかは……一生誰にも話すつもりはありません。申し訳ありませんが、私と彼だけの大切な思い出にさせて下さい」

『小説は幻想的な切ない別れのシーンでラストを迎えましたが、これは、もう一度彼に会いたかったという森口さんの願望を文章にしたのでしょうか?』

「それは……私の中では彼が本当に会いにきてくれていたのだと、そう思いながら書いたので……ごめんなさい、これ以上は、もう……」

 薄っすらと涙を浮かべながら微笑むと、「ああ……」とか「おおっ……」という同情と感嘆の声とともに、無数のフラッシュが浴びせられた。

 その後もインタビューに答えていると、遠くから波のようにざわめきが近づいてくる。
 言葉を途切れさせてそちらを見ると、ざわめきの発生源が微笑みを浮かべて立ち止まる。

「森口さん、展覧会の成功おめでとう」

 ブラックのカジュアルスーツにシルバータイ。
 大きな花束を持ってあらわれたのは、成瀬駿先輩。

 若手カメラマンの中では群を抜いた人気と知名度を誇る、今、注目度ナンバーワンの写真家。
 そして新人映画監督でもある。

「ありがとうございます」
 私が両手で花束を受け取ると、その瞬間を待ち構えていたように一層沢山のフラッシュが焚かれる。眩しくて思わず目を細めた。

 ――雄大、見てる? 雄大の作品がこんなに沢山の人に見てもらえてるんだよ。