思い出さなければよかったのに

「彩乃、写真を撮ってやるよ」

 ずっとスマホでしか撮ろうとしなかったあなたが、はじめて自分のカメラを構えてくれた。
 最高の笑顔を見せたいのに、バカヤロー、今の私の顔、思いっきりブサイクじゃん。

「ハハッ、最初で最期なのに、ブサイクな顔してるぞ」

 ほらみろ、やっぱり言い放った。
 だけどそのあとでいっぱい褒めてくれる。

 そんな不意打ち、卑怯だよ。 やっぱり笑顔が作れなくなる。

 でもいいや。あなたのモデルにやっとなれた。
 やっと……やっとだ……。

 ありがとう。嬉しいよ、雄大。

 ――愛してるよ。

 カシャッ!

 あなたの手が、足が、どんどん透けていく。
 身体の向こう側に、キャンドルの揺らめく灯りが、キッチンが、部屋の壁が見えている。

 ふわりと微笑むあなたの瞳が潤んでいて、そこには濃紺と紫とオレンジ色の美しい空が写りこんでいた。
 私の涙も、この景色と共に、あなたの記憶に残ってくれるだろうか。

「彩乃、ごめんな……ありがとう。愛してる。しあわせになって……」

 最後の言葉は、そよ風のように耳元を通り過ぎて消えていった。