思い出さなければよかったのに

「……ただいま」

 私の肩がピクンと跳ねる。

 ――ああ……。

 聞きたくて聞きたくて、聞きたくてたまらなかった、 懐かしい声。
 ほらね、 あなたはちゃんと帰ってきてくれた。

 後ろから前にまわされた腕。
 冷んやりとしている。
 だけど大丈夫、ちゃんと触れられる。 感じられる。

「ごめんな、ずっと待たせて」
「遅いよ……バカ」

 涙がこみあげてきた。あんなに泣いたのに、まだ水分が残っていたのか。

 でも泣いちゃダメだ。雄大が気づいてしまう。
 絶対に思い出させてはいけない。 絶対に。

 彼は幽霊なのだろうか。 私が作り出した幻なのだろうか。
 何でもいい。 彼はここにいる。 手で触れて、口づけて、 抱き合って……。
 冷たい指先で私の髪を梳き、 氷のような唇で言葉を紡ぐ。

 それで十分。 他には何もいらない。

 だからお願い。どうかずっと、ここにいて……。
 
『もういいよ、考えなくて』
『何も考えないで。思い出さなくていいから』
『もういいじゃない、何も考えなくて』

 なのにあなたは思い出してしまった。