思い出さなければよかったのに

「雄大、もう一度キスして」

 柔らかくて温かい唇が触れる。
 キスをしながら彩乃の手を取って、薬指から指輪を抜き取る。
 それは関節にちょっと引っ掛かっただけで、少し力を入れたらスルリと抜けた。
 
「雄大?」
「彩乃、この指輪は俺がもらっていくよ」
「駄目っ!」
 彩乃が取り返そうとするのを、手を高く上げて避ける。

「返してっ! お願いだからそれは持っていかないで!」
「駄目だっ! こんなのがあったらおまえはいつまでたっても俺を忘れられないだろ!」

 だっておまえって情の深い女じゃん。
 こんな馬鹿な男を何年も待っちゃうようなお人好しじゃん。

 俺に操を立てて、指輪を外さないだろう?
 そんなことをしてたら、この先ずっと新しい男を作れないに決まってる。

 だっておまえ、俺のことが大好きだろ?
 俺だっておまえのことが大好きだけどな!

「おまえはもうこれ以上、時間を無駄にしなくてもいいんだ。彩乃自身の人生を生きてくれ」
「それでいい! 雄大以外にいらない!」

 駄目だよ。
 おまえみたいないい女はしあわせにならなきゃいけないんだ。
 馬鹿な男に振り回されたぶん、これからは誰よりも最高のしあわせを掴むんだ。

 悔しいけれど、寂しいけれど……おまえはいつかまた、新しい恋をする。そうじゃなきゃいけないんだ。

「彩乃、お願いだから、しあわせになって」
 
 俺がここにくることができたのは、きっとおまえにこれを伝えるためだったんだな。

 今までありがとう。
 愛してる。さようなら。
 絶対にしあわせになって。

 だけど……そうだな。