思い出さなければよかったのに

 それから俺たちは沢山キスをして、抱き合って、いろんな話をした。

 恋心も自覚せずに、ただただ一緒にいた幼い頃のこと。
 異性として意識しはじめときのこと。

 写真部の部室。
 窓から流れ込んでくる軽快な音楽と楽しそうな笑い声。
 見下ろせば彩乃が手を振って、俺も振り返して。

 あの時間が大好きだった。

『ただの幼馴染だよ』

 学校でみんなに聞かれるたびに声を揃えて否定した。

 好きなのに好きと言えずにカッコつけて。
 だけど両想いで付き合えることになって。

 横浜と東京に離れてたまにしか会えなくなって。
 頑張って乗り越えて同棲して。

 喧嘩をしたこともあったけど、夜になって布団の中でどちらともなく手を握りあって。
『ごめんな』、『ごめんね』。同時に謝ってキスをして。それですぐに仲直りできた。

 前に進むために離れることを決めた。
 会えない三年間は辛かったけれど、帰ってきたら今度こそずっと一緒にいられると思っていた。

 そうなるはずだった。

 ――そう思っていたのにな。

 外が明るくなってきた。
 シャッとカーテンを開けて、眩しさに目を細める。

 濃紺と紫とオレンジ色が、空に見事なグラデーションを描いている。
 俺はもう見ることもないであろう景色を、ゆっくりと目に焼きつけた。

「よかった。朝日を浴びても身体が溶けなかった」
「それはドラキュラでしょ」
「ハハッ」

 俺にはわかる、まだ大丈夫だ。

 ――だけど、もうすぐ……。

「俺は……何なんだろうな。地縛霊?」
「雄大は雄大だよ。私の彼氏だよ」
「………。」
「雄大は……私の彼氏で、未来の旦那さま。そうでしょ?」

 それに俺は何も答えることができなくて。

「彩乃、写真を撮ってやるよ」
「えっ……」