思い出さなければよかったのに

「ごめんな……長いあいだ待たせてさ」
「……本当だよ」

「カッコ悪いな……玄関に入ってすぐに花束を渡してさ、床に片膝ついてプロポーズするつもりだったんだ。ベタだろ?」
「すればいいじゃん、プロポーズ……ベタなのしてよ」

「……駄目だよ、もうできないよ」
「してよっ! 今、ここでしてっ!」

 肩を揺すって絶叫された。

 でもさ、今更プロポーズなんかして、どうするっていうんだよ。
 結婚できないじゃん。二人の未来なんて、もうどこにもないんだぜ?

 俺はもうすぐ……消えちゃうんだぜ。

 そう。 なぜだかそれだけは漠然とわかっている。
 俺はもうすぐ本当にいなくなる。

 ――それでも俺は自分勝手なヤツだから……。

 彩乃の左手を取って、薬指の歪んだ指輪にそっと口づけて。

「森口彩乃さん……俺と結婚してください」

 これをずっと言いたかったんだ……今度こそようやく言えると思ってたのにな……俺、タイミング外しすぎだよな。

「ハハッ……やっと言えた」
「馬鹿っ、遅いんだよ!」
「本当だな。遅かったな……」
「バカ雄大……」

 彩乃が泣きながら俺にキスをした。
 そしてそっと唇を離すと、「はい、謹んでお受けします」と呟いた。

 俺も泣きながら彩乃にキスをして、それから強く抱き締め返す。

「ごめんな、彩乃……」

 ごめん……本当にごめんな。
 俺はただ、おまえをしあわせにしてやりたくて、自信を持っておまえの隣に立ちたくて。

 ずっとずっと、小さい頃から好きだったんだ。
 息を吸うように、瞬きをするように。 おまえといるのがあたりまえで、過去も未来も二人で分け合っていけるものだと思ってた。

 好きだと言って、好きだと言ってもらえて。
 だけどしあわせなのに苦しくて……俺は自分で大切なものを置き去りにしたんだ。

 後悔したってもう遅い。
 もうすぐ朝がやってくる。