思い出さなければよかったのに

 次々と変わる画面の中で、俺はひたすら笑顔を浮かべている。

 空港を出てタクシーに乗り込む俺。
 電話を掛けようとして思いとどまる。

 ――駄目だ、彩乃の声は直接聞きたい。

 左の胸ポケットに手を当てた。
 そこにはずいぶんくたびれた彩乃の写真が入っている。

 途中でふと目についたお店の前でタクシーを降りた。
 ガラスのショーケースを覗き込み、そのうちの一つを出してもらう。

 シルバーの、真ん中のツイストした部分に小さなダイヤが嵌まっただけのシンプルな指輪。
 彩乃の細い指に似合いそうだ。

 ――プロポーズに指輪の一つも無いと格好つかないしな。

 さんざん待たせたんだ。
 お約束の『蓋パカッ』くらいはしてやりたい。
 デカいダイヤモンドがドンと乗ってるのは無理だけど、賞金が貰えたらアイツが好きなのを買いなおしてもいいな……。

 紺のビロードの箱はラッピングせずに、そのままジャケットのポケットに突っ込んだ。
 会ったら速攻だ。

 近くの花屋で薔薇の花束も買った。
 ベタ過ぎるくらいがちょうどいい。

 もう一度タクシーを拾おうか。
 反対側のほうがタクシーが停まりやすそうだ。
 スーツケースをガラガラ引いて、横断歩道で信号を待つ。

 傷だらけの黒いスーツケースと薔薇の花束。思いっきり注目を浴びてるな。
 
 向かい側にはベビーカーを押す母親と、母親の服の袖を掴んで立っている小さな男の子。
 信号が青になった瞬間に、男の子が、タッと駆けだした。

 ――危ない!