誘った当の友人が仮入部の時点で見切りをつけたのに、なぜ俺が写真部に残ったかというと、カメラのシャッター音に惹かれたから。
顧問の先生が使っていたN社のカメラの、カシャカシャという大きなシャッター音が耳に心地よくて、自分でも使ってみたいな……なんて思ってしまったのだ。
あとで聞いたところによると、成瀬先輩がいきなり厳しめの説明をしたのは意図的だったらしい。
彼は写真部の部長で三年生で、眉目秀麗、成績優秀な学校の王子様的存在だ。
前年度はイケメン目当てのミーハー女子の入部希望者が殺到して大変なことになったそうで、今年は最初からガツンと言ってメンバーを絞り込もうと、前もって顧問と決めていたのだという。
「厳しいことを言って部員が減っても、別にそれで構わない。やる気が無い奴らにカメラの使い方を教えるだけ、時間の無駄だ」
成瀬先輩がそう言っていたけれど、たしかにそれは正解だったと思う。
実際仮入部を経て残った生徒は本当にやる気があるカメラ好きの生徒ばかりで、俺も大いに刺激を受けて、どんどん写真の世界にのめり込んでいったのだった。
そんな俺も、入部して一ヶ月も経つとカメラの扱いに慣れてきて、親戚から譲ってもらったお古のN社製D300sを手に、あちこちで写真を撮りまくるようになっていた。
「ねえ雄大、私の写真も撮ってよ」
「う〜ん、まだ下手くそだからなぁ。もう少しまともに撮れるようになったらな」
それがこの頃、俺がよく彩乃と交わしていた会話。
べつに勿体ぶるようなことでもなかったけれど、はじめて俺が撮る彩乃の写真は最高の出来じゃなきゃ! なんて、勝手に意気込んでいたんだと思う。
「それじゃ、雄大のモデルさん第一号は私にしてね」
「おう」
「絶対だよ! ほかの子は絶対に撮っちゃ駄目だからね!」
「ハハッ、わかったから、それまでに腰のくびれを作っとけよ」
「失礼っ! これでも痩せてるって言われてるんだからね!」
――知ってるよ。
おまえはスタイル抜群で可愛くて完璧だよ。何一つ変わる必要なんてないんだ。
そのうちに最高の一枚を撮ってやるからさ、楽しみに待ってろよ。
あのとき、素直にそう言っておけばよかったのにな。
告げるタイミングを失ったクサい台詞は、その後もアイツに届けることもなく宙に浮いたままで……。
そんなふうに俺が入部当時のことをぼんやりと思い出していたら、窓の外でガヤガヤと騒がしい話し声が聞こえはじめた。
ダンス部の練習が終わったんだろう。
――そろそろ俺も帰り支度をするか。
勉強道具を鞄に片付けはじめたそのとき。
「森口さん、綺麗だよね」
不意に後ろから声がして、俺はビクッと肩を跳ねさせた。
振り向くとそこには成瀬先輩が立っていて、俺と同じように窓から外を見下ろしている。
俺と目が合うと柔らかく微笑んで、なぜか隣の席に座ってきた。
「君達って付き合ってるの?」
「えっ?」
「森口さん……いつも一緒に帰ってるよね。木崎君の彼女なのかな」
ドラマや小説に出てきそうなお約束のセリフ。なんだか嫌な予感がする。
「いえ、俺達は……」
もう何度も繰り返し吐いてきたその台詞を口にするのに、今だけは一瞬躊躇した。
――俺達は……。
俺達は、お隣さんで幼馴染で腐れ縁で同級生で……小さい頃に結婚の約束をしていて……。
はっ、あんなのは子供の頃の他愛もないやりとりだ。
お互いまだ結婚の意味だってわかっていなかった。
アイツだってどうせ忘れてるはずだ。
俺はちゃんと覚えてるけどな。
――ハッキリ、ちゃんと覚えていて……。
うん、俺は覚えてるんだ。ずっとずっと、そうなればいいな……って。
だけどそんなの、何の拘束力も持っちゃいない。
だから俺達は……。
「俺達は……ただの幼馴染です」
「だったら僕が彼女にモデルを頼んでも構わないよね?」
顧問の先生が使っていたN社のカメラの、カシャカシャという大きなシャッター音が耳に心地よくて、自分でも使ってみたいな……なんて思ってしまったのだ。
あとで聞いたところによると、成瀬先輩がいきなり厳しめの説明をしたのは意図的だったらしい。
彼は写真部の部長で三年生で、眉目秀麗、成績優秀な学校の王子様的存在だ。
前年度はイケメン目当てのミーハー女子の入部希望者が殺到して大変なことになったそうで、今年は最初からガツンと言ってメンバーを絞り込もうと、前もって顧問と決めていたのだという。
「厳しいことを言って部員が減っても、別にそれで構わない。やる気が無い奴らにカメラの使い方を教えるだけ、時間の無駄だ」
成瀬先輩がそう言っていたけれど、たしかにそれは正解だったと思う。
実際仮入部を経て残った生徒は本当にやる気があるカメラ好きの生徒ばかりで、俺も大いに刺激を受けて、どんどん写真の世界にのめり込んでいったのだった。
そんな俺も、入部して一ヶ月も経つとカメラの扱いに慣れてきて、親戚から譲ってもらったお古のN社製D300sを手に、あちこちで写真を撮りまくるようになっていた。
「ねえ雄大、私の写真も撮ってよ」
「う〜ん、まだ下手くそだからなぁ。もう少しまともに撮れるようになったらな」
それがこの頃、俺がよく彩乃と交わしていた会話。
べつに勿体ぶるようなことでもなかったけれど、はじめて俺が撮る彩乃の写真は最高の出来じゃなきゃ! なんて、勝手に意気込んでいたんだと思う。
「それじゃ、雄大のモデルさん第一号は私にしてね」
「おう」
「絶対だよ! ほかの子は絶対に撮っちゃ駄目だからね!」
「ハハッ、わかったから、それまでに腰のくびれを作っとけよ」
「失礼っ! これでも痩せてるって言われてるんだからね!」
――知ってるよ。
おまえはスタイル抜群で可愛くて完璧だよ。何一つ変わる必要なんてないんだ。
そのうちに最高の一枚を撮ってやるからさ、楽しみに待ってろよ。
あのとき、素直にそう言っておけばよかったのにな。
告げるタイミングを失ったクサい台詞は、その後もアイツに届けることもなく宙に浮いたままで……。
そんなふうに俺が入部当時のことをぼんやりと思い出していたら、窓の外でガヤガヤと騒がしい話し声が聞こえはじめた。
ダンス部の練習が終わったんだろう。
――そろそろ俺も帰り支度をするか。
勉強道具を鞄に片付けはじめたそのとき。
「森口さん、綺麗だよね」
不意に後ろから声がして、俺はビクッと肩を跳ねさせた。
振り向くとそこには成瀬先輩が立っていて、俺と同じように窓から外を見下ろしている。
俺と目が合うと柔らかく微笑んで、なぜか隣の席に座ってきた。
「君達って付き合ってるの?」
「えっ?」
「森口さん……いつも一緒に帰ってるよね。木崎君の彼女なのかな」
ドラマや小説に出てきそうなお約束のセリフ。なんだか嫌な予感がする。
「いえ、俺達は……」
もう何度も繰り返し吐いてきたその台詞を口にするのに、今だけは一瞬躊躇した。
――俺達は……。
俺達は、お隣さんで幼馴染で腐れ縁で同級生で……小さい頃に結婚の約束をしていて……。
はっ、あんなのは子供の頃の他愛もないやりとりだ。
お互いまだ結婚の意味だってわかっていなかった。
アイツだってどうせ忘れてるはずだ。
俺はちゃんと覚えてるけどな。
――ハッキリ、ちゃんと覚えていて……。
うん、俺は覚えてるんだ。ずっとずっと、そうなればいいな……って。
だけどそんなの、何の拘束力も持っちゃいない。
だから俺達は……。
「俺達は……ただの幼馴染です」
「だったら僕が彼女にモデルを頼んでも構わないよね?」
