ここは以前、彩乃と同棲をはじめるときに呼びだされた社長室だ。
大きな重役デスクの手前に応接セットがあり、その応接セットのガラステーブルを挟んで向こう側に社長とマネージャー、手前に彩乃が座って対峙している。
「社長は私に結婚前提の恋人がいるって知ってるじゃないですか。なのに私と成瀬先輩が噂になっても事務所は否定してくれないし、週刊誌にも結婚間近とか書かれるし。こんなことをもしも雄大が知ったらどうしてくれるんですか!」
テーブルに両手をつき前のめりで抗議する彩乃に対し、社長は冷静だ。
白いカップのコーヒーを一口飲んでから優雅な手つきでカチャリとソーサーに戻し、ソファーに背中を預ける。
「彩乃、その彼氏は、今どこにいるんだった?」
「それは……あちこち移動して頑張っていて……」
それを聞くと、社長はふーっと大袈裟にため息をつく。
「彩乃、成瀬さんはあなたを引き上げてくれる人よ」
「社長っ!」
「聞きなさい」
社長はゆっくりと足を組みなおすと、彩乃に言い含めるように懇々と説いた。
「彩乃は高校卒業したての十八歳でうちの事務所に来てから、よく頑張ってきたと思う。でもね、必死さがないのよ」
いわく、彩乃ならもっと上を目指せるはずなのに、どんなことをしてでも売れてやろうという野心がなさすぎる。
それは彩乃がデビューから今まで順調に売れてきたせいでもあり、さらに言えば今の仕事をいつ辞めても構わないと思っているからだ。執着がないのだ……という。
「あなたはよくやってきたと思う。これからはモデルやバラエティーだけでなく、女優業をするだけのポテンシャルもあると思っているのよ」
「私はそんな……」
「そうね、あなたは結婚してかわいい奥さんになりたいんだものね」
だけどね……と社長はため息を吐いてから、最後通牒のようにキッパリと言った。
「もう少し視野を広げてごらんなさい。そして考えて。あなたの人生に本当に彼が必要なのかどうか。もっとふさわしい男性がいないのか……って」
彩乃は不満げに押し黙ると、そのまま事務所をあとにした。
大きな重役デスクの手前に応接セットがあり、その応接セットのガラステーブルを挟んで向こう側に社長とマネージャー、手前に彩乃が座って対峙している。
「社長は私に結婚前提の恋人がいるって知ってるじゃないですか。なのに私と成瀬先輩が噂になっても事務所は否定してくれないし、週刊誌にも結婚間近とか書かれるし。こんなことをもしも雄大が知ったらどうしてくれるんですか!」
テーブルに両手をつき前のめりで抗議する彩乃に対し、社長は冷静だ。
白いカップのコーヒーを一口飲んでから優雅な手つきでカチャリとソーサーに戻し、ソファーに背中を預ける。
「彩乃、その彼氏は、今どこにいるんだった?」
「それは……あちこち移動して頑張っていて……」
それを聞くと、社長はふーっと大袈裟にため息をつく。
「彩乃、成瀬さんはあなたを引き上げてくれる人よ」
「社長っ!」
「聞きなさい」
社長はゆっくりと足を組みなおすと、彩乃に言い含めるように懇々と説いた。
「彩乃は高校卒業したての十八歳でうちの事務所に来てから、よく頑張ってきたと思う。でもね、必死さがないのよ」
いわく、彩乃ならもっと上を目指せるはずなのに、どんなことをしてでも売れてやろうという野心がなさすぎる。
それは彩乃がデビューから今まで順調に売れてきたせいでもあり、さらに言えば今の仕事をいつ辞めても構わないと思っているからだ。執着がないのだ……という。
「あなたはよくやってきたと思う。これからはモデルやバラエティーだけでなく、女優業をするだけのポテンシャルもあると思っているのよ」
「私はそんな……」
「そうね、あなたは結婚してかわいい奥さんになりたいんだものね」
だけどね……と社長はため息を吐いてから、最後通牒のようにキッパリと言った。
「もう少し視野を広げてごらんなさい。そして考えて。あなたの人生に本当に彼が必要なのかどうか。もっとふさわしい男性がいないのか……って」
彩乃は不満げに押し黙ると、そのまま事務所をあとにした。
