思い出さなければよかったのに

「──悪かったね、僕のせいで困らせてしまったみたいで」

 今度は成瀬先輩の声が聞こえてきた。

 ――えっ、成瀬先輩?!

「ちょっと休憩にしようか」
「はい」

 またもや場面が切り替わり、目の前には俺が昔働いていた場所と似たような景色が現れる。

 三脚とカメラ。白いラフ板。煌々と照らす大きなライト。床を這ういくつものコード。
 正面ステージに置かれた紅いビロードの長椅子は、洒落た猫脚のアンティーク調。

 その上に寝そべっていた白いドレス姿の彩乃が起き上がり歩いてくると、カメラの横のパイプ椅子に腰掛けた。

 ――ここは……。

 そうか、たぶんここは、成瀬先輩のスタジオだろう。
 彼のスタジオを見たことはないけれど、まだ新しくて小綺麗だし、何よりカメラマンが成瀬先輩だ。

 そしてモデルが……。

 ――彩乃、おまえは……成瀬先輩のモデルをしたのか……。

 俺がいないあいだに彩乃は成瀬先輩と会っている。

 これは仕事だ、仕方がない。俺に文句をいう資格もない。
 だけど……痛い。苦しい。心臓が雑巾を絞ったみたいにギュッとなる。