思い出さなければよかったのに

 * * *

「――そうは言っても、あなただってもう二十七歳でしょ。いつまでも独り身でいたら、そりゃあ見合い話だってくるわよ」

 彩乃の家のダイニングテーブル。
 ひらいて置かれた見合写真。
 
 ――見合い……そうだよな。二十七歳にもなれば、そういう話だってくるに決まってるよな……彩乃は可愛いからな。人気モデルだもんな。

 彩乃の家には何度もお邪魔させてもらったことがある。小さい頃から、数えきれないくらい。

 明美さんが仕事で家にいないときに、朝まで彩乃と晴人と三人でゲームしたよな。
 カレーライスを作ろうとしたら彩乃の包丁の扱いが超絶下手くそで指を切りそうになって、結局は俺と春人でカレーを作って、彩乃はサラダ用のレタスを手で千切っただけだったんだ。

 そういえば、誰もいないときに彩乃の部屋でエッチもした。
 あのときは晴人が修学旅行に行っていて……。
 懐かしいな。家具の配置も変わってないや。

 そんなふうに懐かしく思っているあいだにも、彩乃と明美さんの会話は続いている。

「うちの病院の師長さんの親戚だって。二十九歳、銀行員。あなたのファンらしいわよ」

 師長の親戚……銀行員……ガッチリ安定してるな。フラフラしてる俺とは大違いだ。

「ファンなんて、それこそ嫌よ! 私のうわべを見て憧れてるだけじゃないの! 第一私には雄大がいるのよ。 お母さんだってわかってるじゃない」

 明美さんは一つ大きな溜息をついて、彩乃が押し返した見合い写真をもう一度ズイッと彩乃の前に押しやる。