思い出さなければよかったのに

 その夜俺は、街で買ってきた絵葉書で、はじめて彩乃に手紙を書いた。

 インドに着いてすぐに電話をしたきりで、あとはたまにメッセージのやり取りをするのみ。それさえも最近は経費削減で途絶えていたが……今は無性にこの感動を伝えたいと思ったのだ。

『ベトナム人はエネルギッシュです。干からびたときに飲むココナッツジュースは案外美味しかった』

 もっと色々書こうかとも思ったが、スペースが少なかったため諦めた。
 それに、長く書けば書くほど、弱音を吐きたくなってしまうから。
 ここで早くも里心がついたら目も当てられない。

 ――とにかく、俺の撮りたいものが見えてきた。

 俺は少し考えてから、さっきの文章の下に短く書き足した。

『子供の写真を撮ろうと思う』

 カシャッ!

 俺の愛機、D850のシャッター音。

 目も眩むような白い閃光。

 ああ、まただ。

 俺は白い光の中に吸い込まれていく。
 今度はいつの時代に飛ばされるんだ?

 ――ああ、だけど……。

 気付いてしまった。
 思い出を巡る旅は、終着点に近づいている。