思い出さなければよかったのに

 意識的に景色ばかりを撮っていたアシスタント時代。
 食べ物ばかりを撮っていた、会社員の二年半。

 人物を綺麗に撮る自信が無くて、誰かと比較されるのが怖くて避けていたけれど……。

 カシャッ!

 全員を家の前に立たせて家族写真を撮った。

 画像モニターを見せたらみんなで顔を寄せ合って覗き込んできて、「グッドだ! 上手だな! (と言っていたような気がする)」と大喜びしてくれた。

 ここでは芸術性もテクニックも求められていない。
 ただあるがままを写し、喜んでもらえた。
 それでいいと思えた。

 俺を救ってくれたおじいさんはタムさんという名前で、市場で果物を売って生計を立てているという。
 孫は二人いて、ファンとダン。まだ十歳と八歳の少年だが、週末には市場でココナッツジュースを売っているらしい。

 家に一泊させてもらった俺は、翌朝一緒に市場について行き、ドリンクスタンドでジュースを売っている二人をカメラで撮りまくった。
 浅黒い肌に薄っすらと汗をかき、白い歯を見せてニカッと笑う二人は活き活きと輝いている。

 カシャッ! カシャカシャッ!

 活気ある市場の雑踏。値段を交渉する大きな声。犬を追いかけて走り回る子供達。
 あんなに怖がっていたのが嘘みたいに、俺は夢中でシャッターを押し続けていた。

 ――うん、楽しいな……。

 難しく考える必要はないんだ。
 背景がどうのとか、構図がどうのとか。
 ただ、目の前にある美しいものをあるがままにレンズで捕らえる。それでいい。

 素材さえよければ、ソースやクリームで余計な味付けをしなくても、十分美味しく食べられる。
 要はそういうことだ。