思い出さなければよかったのに

「ちょっ、ちょっと待てよ! 俺はそういうの興味ないから!」

 慌ててハリッシュを引き止めると、彼は意外そうな顔で俺を振り返る。

「ユーダイ、おまえはセックスをしたくないのか?」
「セッ! ……そりゃあしたいけど、俺は日本に彼女がいるんだよ。他の女となんてできない」

 ハリッシュは肩を竦めながら、「何をお堅いことを言ってるんだ。ここは日本じゃなくてインドだぞ。おまえの彼女は遥か彼方だ。気にする必要はない」と当然のように言ってのける。

 ――おいおい、ヒンズー教の教えってどうなってんだよ。こんなに性に開放的でいいのかよ!

 おまえには妻子がいるだろうと言ってやったら、「それとこれとは別」と返された。
 ハリッシュによると、インド人は女性には婚前交渉の禁止や貞淑を求めるが、男性に対してはそうでもないらしい。

 本当かよ、おまえが奔放なだけなんじゃないのかよ……と言ってやりたかったけど、俺が口出しすることでもないと思いグッと呑み込んだ。

「おまえは一人の女だけで満足できるのか?」

 そう聞かれて一瞬考えてみたが、俺は迷わず「イエス」と答える。

「俺が好きな女は一生一人だけだし、抱きたいと思うのもそいつだけなんだ」

 苦笑するハリッシュとはそこで別れて、俺は薄汚れたその通りから足早に立ち去った。
 さっき見た、鉄格子の向こう側の生気のない女達の顔を思い出し、次に彩乃の顔を思い浮かべる。

 ――俺は一生彩乃だけだ。