思い出さなければよかったのに

「俺なんかの彼女でいてくれて、ありがとうな。彩乃がいてくれるから、俺は頑張ろうって思えたんだ」

 今日は彩乃を思いっきり甘やかして、最高の誕生日にしてやろうって決めていた。
 だって最後の夜なんだ。照れたりカッコつけたりせずに、ありのままの気持ちをそのまま伝えておきたい。

「俺の最後の悪あがきに付きあわせてごめんな。許してくれてありがとう。俺の彼女でいてくれて、ありがとう」

『26』の数字のキャンドルをケーキに突き刺し火を灯す。

「ほら、ケーキタイムだ。ロウソクを吹き消して」
「うっ……ううっ……雄大……」

 彩乃が顔をくしゃくしゃにして俯いた。おい、鼻水が垂れてるぞ。モデルのくせにブサイクだな。
 ブサイクだけど、最高に可愛くて愛しい。

「ほら、火が消えないとケーキが食えないぞ」
「ゆ……だいも……一緒に……」
「ハハッ、わかった」

 せーの……で一緒にフッと息を吹き掛けると、ロウソクの炎は大きく揺らめいて、呆気ないほど一瞬で消えてしまった。

「雄大も……一緒に……切って」
「……わかった」

 台所から包丁を持ってきて、柄を握る彩乃の手の上に俺の右手を重ねて……。

 ――なんだか初めての共同作業みたいだな……。

 そう言って茶化してやろうかと思ったけれど、彩乃はそのつもりなのかもしれないな……と考えたら、笑い飛ばすことなんてできなかった。

 だから俺は黙って彩乃の後ろからもう一方の手も伸ばし、アイツの手の上に重ねた。一緒に包丁の柄をキツく握り締める。

 ――カシャッ! この一瞬を心のカメラに収めておこう。俺達の初めての共同作業。