思い出さなければよかったのに

「ハハッ、ブサイクだな」
「ブサイク言うな!」
「いいじゃん、ブサイクでも可愛いよ」

 そこでようやく彩乃が「ふふっ……何それ、意味不明」と笑う。

 ――うん、いいな。ここにいるのは俺の……俺だけの彩乃だ。

 ブサイクでも鼻水が垂れててもいいんだ。
 彩乃がそうやって素顔をさらけだすのも、みっともない顔して泣くのも俺の前だけなんだろう?
 俺にとってはそれが最高のご褒美で喜びなんだよ。

 みんなの人気モデルの彩乃が俺だけの森口彩乃の顔になる。
 この瞬間がどんなに嬉しくてどれほど俺を満たしてくれてるかなんて、おまえは考えたこともないだろうけど。

「彩乃は誰よりも可愛い……本当だよ」
「可愛いのに日本に置いて行っちゃうんだ」
「うん……ごめん」

「うん、待ってる。雄大が帰ってきたときに褒めてもらえるように、お仕事を頑張って待ってる」
「うん、待ってて」

 俺は彼女の目尻に残る涙の粒を唇で拭い、そのまま頬に、首筋にキスをする。

「もう一回ヤりたい……いい?」
「ふふっ、一回でいいの?」
「ん……ダメだな。一晩中抱きたい」

 俺が耳元で囁くと、彩乃が「いいよ」と俺の首に腕をまわす。そのままヨイショと細い身体を抱き上げて、お姫様抱っこで寝室に向かった。

 それから俺達は白いシーツのベッドの上でまた抱きあって。
 夜中の零時ぴったりに、肌を重ねながら俺が「誕生日おめでとう」と言ったら、彩乃が俺の胸に顔を埋めてまた泣いた。

 俺が彩乃を泣かせている。
 彼女が誕生日を迎えた瞬間に流す涙が、嬉し涙じゃなくて悲しみの涙。

 そう思うと、情けなさとか申し訳なさとか寂しさとかがごちゃ混ぜになって、俺も泣きたい気持ちになった。
 だけど俺には泣く資格なんかない。

「彩乃、ごめんな……」
「雄大……愛してるよ……」
「うん、彩乃、愛してる……愛してるよ…」

 心に隙間ができないように。二人の不安を打ち消すように。
 キツくキツく抱き締めあって、汗ばんだ肌をピタリとくっつけて、はじめての二人旅の夜を心にしっかりと刻み込んだ。

 あと一日で、俺たちは離れ離れになる。